きみと、まるはだかの恋
 今こうして冷静に考えれば、自分がどれだけ浅はかな発言をしたのか理解できる。
 都会と田舎の生活は全然違う。どちらが優れているなんて測れないはずだし、収入の大きさを比べるなんてナンセンスだ。
 ……と、今なら分かるのだけれど、さっきは疲労のせいでイライラも溜まっていて、心無い言葉を浴びせてしまった。本当に自分が情けなくて消えたくなる。

「たぶんさ……私、高校時代、同じ時間を過ごしたはずの昴が自分と正反対の生活をして、違う価値観を持って生きていることが、受け入れられなかったんだと思う」

 昴が隣ではっと息をのむのが分かる。言葉にすればきっとそういうことだろう。
 いちばん近くで青春時代を送って、恋をしていた相手である昴が、自分と全然違う環境のなかで活き活きと輝いている姿を見て、昔と今のギャップに頭が混乱していたのだ。一言では言い表せないもやもやとしたもどかしい気持ちが胸の中に広がって、もう昔みたいに同じ景色を見ることができないのだと痛感してしまったから。
 だからこそ、やるせない気分で昴のそばから離れてしまったのだ。
 本当はできるだけ長く、隣にいたいはずなのに。

 昴は私の心中を察してくれたのか、しばらくの間押し黙ってじっと静かに息をしていた。彼と私の間にはわずかに二十センチほどしか隙間が空いていない。だけどその二十センチ先が、昔も今も遠い宇宙の果てのように遠く感じられる。
 稲穂が風に揺れる音や、鳥たちがはばたく音、秋の虫のリンリンという声が自然の中で合奏している。何重にも重なったメロディーは、耳に心地よくてすっと目を閉じた。
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