きみと、まるはだかの恋
 にやり、と口元を緩めて彼がハンドルを握る。ブオン、とエンジンをふかせて、軽やかに走り出した。田舎道だからか、軽トラの助手席は思ったよりも揺れが激しかった。衝撃が座席を揺らし、絶妙にお尻が痛い。だけど、隣でハンドルを握る昴の横顔が眩しくて、左腕に浮き上がる筋にどきりとさせられた。
 高校時代も、この腕の筋が好きだったんだよな。
 それを昴に伝える勇気はもちろんなかった。伝えたところでおかしなフェチだと笑われそうだし。このきゅんポイントはそっと胸にしまっておく。

「仕事は大丈夫そうだった?」

「うん。当分は撮影の予定がなかったから大丈夫そう。PR案件に関しても、いろいろ調整したらなんとかなった」

「そうか。自分で言い出したけどさ、問題が起きてたらさすがに申し訳ないなと思って」

「大丈夫」

 昨日は私の仕事について物申していた昴が、そこまで心配してくれているとは思っておらず、素直に驚いた。でもこれが彼の優しさなのだ。昨日は私のほうも余計なことを言ってしまったから、本来であれば昴が他人の仕事を馬鹿にするようなやつじゃないってことは、私が一番よく知っている。

「これからさ、俺の家でしばらく泊まるのでも大丈夫? もし気になるようだったら、知り合いに頼んで空いている持ち家がないか確認してみるけど……」

「う、うん。昴の家で大丈夫」

 さすがに、よそ様のお宅に迷惑をかけるわけにはいかない。
 昴と一つ屋根の下でしばらく過ごすことを考えると少し——いや、かなり緊張するしドキドキする。昴はどうなのかな。私と一緒の家に住むことを自分から提案してきたけれど、彼は今の私のようにドキドキなんてしていないんだろうか。
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