きみと、まるはだかの恋
「了解。一昨日使った部屋をそのまま使ってくれていいから。それと、午前中だけでもいいから農作業手伝ってくれると嬉しい。ご飯は俺が作るし、波奈は基本家でゆっくりしてていいよ」

「え、さすがにご飯ぐらい作るよ」

 昴は農作業で一日中体力を使うだろうに、自炊までお任せするのはとても忍びない。
 とはいえ、私にまっとうな自炊スキルなんてないのだけれど……。

「いや、波奈ってあれだろ。東京であんま料理とかしてないだろ」

「うっ……どうしてそれを」

「いや、だって毎日あくせく働いてたら誰だってそうなるって。俺だって昔東京で働いてたから分かる」

「そ、そっか……。そういえば昴は東京で建築系の仕事をしてたんだっけ?」

「そうそう! 建築設計事務所で建築施工管理技士として働いてた」

「建築施工管理技士……なんだか大変そうな仕事だね」

 そのいかつい名前のついた仕事が具体的にどんな仕事なのかちっとも分からないけれど、建築関係の仕事はどれも体力勝負というイメージがある。

「ははっ。そうだな。現場の管理、監督をする仕事なんだけどどっちかっていうと調整役だな。でもどんな仕事も大変なのは変わりないだろ。波奈も、周りからは“自由でいいね”とか言われてない? 実際はめっちゃ苦労してるのに」

「う、うん。友達からはよく羨ましがられる。自由業ってのんびり好きなときだけ仕事ができていいねって……」

 フリーランスになってからこういうことを言われすぎてもう慣れたけれど、最初は「そうだね」と笑いながら「何も知らないくせに」と内心憤っていたことを思い出す。

「だよなー。華やかに見える世界ほど、裏では大変な思いをしてるのにな。あ、そろそろ着くぞ」

 さらりと私の気持ちを汲んでくれる昴が、なんだか愛しく思えてくる。
 昴は分かってくれるんだ。私の仕事ぶりを知らなくても、私がどんな気持ちで仕事をしているのか、理解してくれる気がする。
 これから星見里で過ごす時間が、暗いトンネルにほのかに差し込む光のように思えて、ちょっぴり楽しみになった。
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