きみと、まるはだかの恋
「こっちでの生活はどうよ」

 腰に当てられた保冷剤の冷たさが心地よいと感じていた最中、昴がそっと聞いてきた。

「やっぱり全然慣れない。でも自然の空気は美味しい。スマホが見たくて仕方がない。いや、スマホが見たいっていうか、外の世界の情報が知りたい」

「そうか。そうだよなあ。俺も、今でこそ慣れたけど、ここで暮らし始めたばっかの頃は世間で何が起こってるのか分かんねえのはしんどいと思ってた」

 ちょっと意外だった。こんな田舎に——とは言っては失礼だが、自ら好んで田舎に住み始めた昴のことだから、デジタルに触れられなくても平気なんだと思っていた。でも、考えてみれば彼だって二十年以上、便利な場所で生活をしてきたのだ。町田だって23区に比べたら田舎だとは思っていたけれど、今思えばあれは田舎ではなかったのだ。

「自然の空気が美味しいって思うならさ、たぶんそのうちスマホのこともしんどくなくなるよ」

「んーそういうものかな?」

「大丈夫、大丈夫!」

 からからと笑いながら楽観的な口調で言う昴だったが、どうも彼の言葉には納得できない部分があった。私は昴とは違い、インフルエンサーとして働いているのだ。スマホありきの職業だし、スマホの向こう側から自分を見ているひとたちの顔が浮かぶ。この辺の感覚は、インフルエンサーになってみないと分からないのだろう。
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