悪役令嬢の逆襲

プロローグ

「お久しぶりですわね、フィリップス殿下。それに……マリアンヌ嬢」

 イザベルの声は冷静さを保っていたが、その目には氷のような冷たさが宿っていた。

 彼女の登場に気づいた人々が次々と振り返り、小さなざわめきが広がっていく。

「あの没落令嬢だ」
「いや違う、別人みたいに美しい」
「両親のせいで失敗した女だ」

 と陰口が聞こえてくる。

 マリアンヌは一瞬驚きを見せたが、すぐに嘲るような笑みを浮かべて挑発する。

「まあイザベル様。こんなところでお目にかかるなんて思いませんでしたわ。あなたの顔は社交界でも忘れ去られておりましたよ?」

 イザベルは静かに微笑むと、「そうかもしれませんね。ですが今日は少し用事がありまして」と答えながら優雅に一礼する。

 そして真っ直ぐフィリップスを見つめた。

「殿下。私があなたの視界から消えてからもう二年になります。あなたは随分と幸せそうなご様子ですね。マリアンヌ嬢はとても愛らしい方ですから、さぞ充実した日々をお過ごしでしょう」

 その言葉には皮肉だけではなく、どこか痛々しい響きがあった。

 フィリップスの顔色が変わる。

「イザベル……君はなぜここに? 君には関係ないことだろう」

 イザベルは一歩前へ進み出る。
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