クールな王子様からの溺愛なんて、聞いてません!!
卵焼きを詰め終わって、私はお弁当箱の蓋を閉めた。
「お、なんだ華子、弁当自分で作ったのか」
「この子、ちょっと前から自分で作り始めたのよ。卵焼きも上手だし、盛り付けだってお手のものよ」
まだまだ、初心者レベルな出来栄えなのに、お母さんが大袈裟に褒めるようなことを言うから私は苦笑いを返す。
「まだまだ、全然だよ?」
ここ最近、私は料理に興味を持ち始めた。
卵焼きの焼き加減やおかずの詰め方を試行錯誤しながら練習してきたけれど、まだ趣味と呼べるほどではない。
「華子、お父さんの弁当も作ってくれよ」
「ええっ!?まだ、そんなに上達してないし…」
自分が食べる分にはいいけど、誰かの分を作るほど、出来栄えのいい物を作れるレベルには到達していない。
お父さん、絶対会社の人に「これ、娘が作ったんですよ!」なんて見せまくるに違いないもん。
「今日は時間ないから、お父さんのお弁当はまた今度!」
はぐらかすように返して、私はお弁当をかばんにしまった。
肩にかけたかばんを整えながら、玄関に向かう。
「華子、お父さん泣いちゃうぞ〜」
靴を履いてドアを開けたその瞬間、背後からお父さんの情けない声が聞こえてきた。
「行ってきます!」
そんな声は聞こえなかったふりをして、私は家を出た。