クールな王子様からの溺愛なんて、聞いてません!!
「キッチン、好きに使っていいから」
綿谷くんはそう言うけど…
こんな豪華で綺麗なキッチンを汚すわけにもいかない。
だから私は今までにないくらいの緊張で、包丁を握った。
静かな空間に、トントン、と包丁の音だけが響く。
あまりにも緊張しすぎて、テーブルの椅子に座っているはずの綿谷くんを振り返ることができなかった。
…大丈夫。あんなに練習したんだから、いつも通りに。
あと少しで終わる玉ねぎのみじん切りを続けようとした時。
「わっ!」
いつのまにか近くにきた綿谷くんが、私の腰に腕を回してきて、後ろから抱きしめられた状態になっていた。
「あ、危ないです!」
もし包丁を落としちゃったら大変なことにになっちゃう。
私はちょっと怒って言ったつもになのに、綿谷くんは全く気にしていないようだった。
それよりか、腰に回した腕が、さらにぎゅっと強くなる。