明治誓いの嫁入り──政略結婚から始まる危険なほど甘い溺愛
披露宴では、ただ座っているだけだった。

たまに誠吾さんがちらりとこちらを見てくれるけれど、言葉を交わすことはない。

私もこちらから話しかけるのは気が引けて、ただ、にこっと笑みを返すだけにしておいた。

「没落した華族の娘か。」

「坊ちゃんも難儀なことをしたな。」

ひそひそ声が、背後から突き刺さる。

そうだ、皆知っているのだ。私が“華族の令嬢”と名ばかりで、実際は貧しい家の娘だということを。

俯きそうになったとき、不意に誠吾さんの手が私の膝の上に重なった。

驚いて顔を上げると、彼は無表情のまま正面を見据えていた。

けれど、その手は確かに「気にするな」と伝えてくれている気がした。

胸の奥に、熱いものが広がっていく。

冷酷だと噂される人が、なぜこんなふうに優しくしてくれるのだろう。

私は小さく息を吸い、姿勢を正した。

もう大丈夫──誠吾さんが隣にいる。

そう思うと、不思議と噂話も遠くに聞こえるようになっていた。
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