明治誓いの嫁入り──政略結婚から始まる危険なほど甘い溺愛
そして私は、誠吾さんの前に立った。

「矢崎誠吾だ。来てくれてありがとう。」

低く落ち着いた声。その響きに、胸がきゅっと詰まる。

私は緊張で震える唇を噛みしめ、必死に言葉を紡いだ。

「……末永く宜しくお願いします。」

たったそれだけを伝えるのが精一杯だった。

けれど誠吾さんの顔は、不意に赤く染まっていく。

「あの……」

「すまない。こんなに美しい人だとは思わなかった。」

思いがけない言葉に、息が止まりそうになる。

顔を見ずに結婚が決まることなど珍しくない世の中。

けれど、気に入ってもらえたのだと分かって──私はほんの少しだけ心が軽くなった。
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