キミノオト

開園時間になり、バックバンドの演奏が始まると、誠さんと綾さんが登場してきた。

途端に盛り上がる会場にあっけにとられながらも、ドキドキがとまらない。

二人が演奏を始めると、ステージ奥にあったドアが開き、ギターを弾きながら陽貴さんが現れた。

会場の歓声はさらにヒートアップ。

その歌声は、機械越しに聴いていたものとは比べ物にならない迫力。

心臓はさらに激しく動きはじめ、もはや苦しい。

陽貴さんから目をそらすことができず、ただただ見つめ続けた。

「優麻ちゃん、私、陽貴さんのこと好きみたい」

曲が終わり、拍手が落ち着いてきたころを見計らって今さっき気づいた私の気持ちを口に出した。

優麻ちゃんにきいてほしかった。

「ふふ、みたいだね。少し前に進めたみたいでよかった」

優麻ちゃんは優しく頭をぽんぽんすると、自分の肩にかけていたタオルで私の涙を拭ってくれた。

自分では気づいていなかったけれど、気持ちが溢れてしまったようだ。

でも、これは見つめるだけの恋。

彼は、私の手が届くような存在じゃない。

こんなに近くにいるのに、彼に追いつくことはできないんだな。

恋心を自覚したと同時の失恋。

心がちくりと痛んだ。
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