キミノオト

「じゃん!今日のメインはこちら!」

周囲はさっきまでとうって変わって人でごった返している。

最近はマシになってきたとはいえ、やはり人込みは苦手。

無意識で、龍也がいないか探してしまう。

「ここで何かあるの?」

「わかってたけど、鈍いなぁ…。とりあえず中に入るよ」

優麻ちゃんは手慣れた様子で、チケットを建物の入り口にいた人に見せる。

「席はこっちだね」

建物の中をなれたように進む優麻ちゃんについていく。

解放されている大きな扉に足を一歩踏み入れた瞬間、さすがの私でも理解した。

「優麻ちゃん、これって」

「やっと察したか。あ、席ここだって。上着脱いじゃってね」

呆然としながら言われるがまま上着を脱ぐ。

朝着替えたときは気づかなかったけれど、ライブパーカーを着せられていたみたいだ。

「ちょっと説明してほしい。理解が追い付かない」

「海音が陽貴さん達の正体に気づいた後に、このライブチケットの抽選予約してたから応募してみたら当たった。しかも最終日。めっちゃ強運すぎて自分がこわい」

上着を脱ぎながらピースしてみせる優麻ちゃん。

「会いたかったんでしょ?こんなに大勢ファンがいるし、さすがに気づいてはもらえないだろうけどさ、生の陽貴さんが見れるよ」

「大好き。神様」

ぎゅっと抱き着くと、優しく頭をなでてくれる優麻ちゃんの温かい手。

「せっかくおめかししてきたんだから、気づいてもらえるといいね」

泣きそう、だけど泣いたらせっかくのメイクが崩れちゃう。

私は涙をこらえながらこくこくとうなずいた。
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