キミノオト
すべての曲が終わり、深々と頭を下げる3人。
「僕たちのライブに来てくれて、本当にありがとう!気を付けて帰ってね」
何度も頭を下げ、大歓声と拍手に囲まれながらステージから去っていった。
「すごかったね」
「うん、めちゃくちゃかっこよかった。今日は連れてきてくれてありがとう」
「どういたしまして。じゃあ、帰ろうか」
名残惜しいけれど、これが現実。
運よくあの日出会えただけで、手の届く相手ではないのだ。
「また来ようね。何度でも付き合うよ」
私の気持ちなどお見通しなのだろう。
優麻ちゃんは、明るく優しい声でそういうと、私に上着を着せた。
「すみません。水野様と橋爪様でお間違いないですか?」
そこに、ライブTシャツを着た男性が話しかけてきた。
STAFFと書かれた札をかけていることから、怪しい人でなさそう。
「そうですけど…」
優麻ちゃんが怪訝な顔でお返事をしている。
人見知りの私は、空気に徹する。
「少しお話があるのですが、お時間いただけないでしょうか」
「わかりました」
「ありがとうございます。それではこちらへ」
そういって、促されるままついていくと、関係者以外立ち入り禁止のエリアに入っていく。
「なんかしちゃったかな」
「いや、違うと思うな、これは」
ビビりまくりの私とは反対に、優麻ちゃんはどこか楽しそう。
「こちらで少々お待ちください」
そういって軽く会釈すると、男性はどこかへと去っていった。