キミノオト
通されたのは、小さなお部屋だった。
テーブルとイスがあって、壁には鏡がついていて、テレビでしか見たことないけれど、楽屋のような感じ。
「なんだろう話って。出入り禁止とか言われたらどうしよう」
「落ち着いて。大丈夫、きっと悪い話ではないよ」
ネガティブな私を明るく励ます優麻ちゃん。
でも、そんな言葉すら頭に入ってこないくらい、私の気持ちは沈んでいた。
もう生で陽貴さんの姿を見るチャンスすら失うのかもしれない。
さっきまでの幸せな時間は、神様がくれた最後の贈り物だったのかも…。
そうだよね。
私にはそんな人生がお似合いだよね…。
ガチャッ
勢いよくドアが開いた音がして我に返った私は、音がした方向に目を向けた。
心臓がはねるのを感じた。
「ほらね、悪い話じゃなさそう」
優麻ちゃんは私にだけ聞こえるような小さな声でそういうと、私の背中を押す。
一歩前に出た私に近づくその人。
「海音ちゃん、お久しぶり」
「陽貴さん…」
焦がれたあの人が、こんなに近くにいる。
心臓が信じられない速さで動いている。
「私は廊下にいるのでどうぞごゆっくり~」
「気を遣ってくれてありがとうございます」
陽貴さんの言葉に、いえいえ~と、優麻ちゃんはにやにや笑いながら部屋を出ていく。