キミノオト

【9】


…と決意したものの、送迎の車に乗った途端、また緊張でガチガチに固まってしまった私。

大人気アーティストさん達と車に乗る機会なんて、もう二度とこないだろう。

本来一度だってあるはずなかったんだけど。

ファンにバレたらぼこぼこにされそう。

「海音、大丈夫だよ。頑張って」

隣に座る優麻ちゃんにまた励まされるも、緊張で声が出ない。

「ここで合ってる?」

マネージャーさんからの声掛けで窓の外を見ると、私たちのアパートの前についていた。

「合ってます。ありがとうございました。海音のこと、よろしくお願いします」

最後に、頑張ってね、と残して優麻ちゃんは車から降りて行った。

まって、と思うも、応援してくれる優麻ちゃんに迷惑はかけられないと口から出かけた言葉を飲み込む。

車はゆっくり走りだし、3分ほど走った後、きれいなマンションの前で停まった。

「海音ちゃん、ついたよ」

陽貴さんに促され、車を降りる。

「ありがとうございました」

マネージャーさんにお礼を伝えると、慌てて陽貴さんを追いかける。

「慌てなくて大丈夫だよ」

優しい言葉をかけてくれる陽貴さんにきゅんとしながらも、気になることが一つ。

ここどこなんだろう。

そういえば、行先きいてなかった。

誠さんと綾さんも車から降りて一緒に歩いてるし、事務所かなんかがあるのかな?
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