キミノオト

「私にも仕事があるし、生活リズムの違いとか、問題がたくさん出てくると思うよ」

陽貴君は、黙ったまま私の話をきいている。

「それに、家で集中して作業することが多いなら、なおさら他人がいるのは思ってる以上にストレスになると思う。邪魔だけはしたくない」

「…わかった。でも、とりあえずこれだけ渡しておくね」

そういって手渡されたのは、陽貴君が使っていたのと同じ鍵。

「まずは、予定が会うときだけでいい。好きな時に来て」

「ありがとう」

私は受け取った鍵を大事に握りしめた。

「あ、じゃあ、私も」

私は部屋の中からスペアキーを持ってくると、陽貴君に渡した。

「ありがとう。今はこれで我慢するよ。でも、海音が一緒に住んでもいいって思ったときは、すぐにでも引っ越してきて」

「うん。ありがとう」

陽貴君の気持ちは素直にうれしい。

私は、この人を支えられる人間になりたい。

甘やかすだけじゃなくて、お互いを高めあえるようなそんな存在になるのが目標。

しばらく抱き合った後、満足した顔の陽貴君はタクシーで帰っていった。

何度部屋の中に移動を促しても、頑なに玄関から動こうとしなかったな。

なぜだろう。

もしかしてこのルームフレグランスの香り苦手だったかな。

少しもやもやしながらも、お風呂に入ってすぐに布団にもぐりこんだ。
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