キミノオト

【12】


楽しかった時間はあっという間に過ぎるもので、気づけば時刻は21時を回ろうとしている。

「そろそろ帰ろうかな」

「送るよ」

気持ちは嬉しいけれど、あまり二人で外を歩くのはよくないだろう。

それに、思ったより近くに住んでいたとはいえ、付き合わせるわけにいかない。

「大丈夫だよ。そんなに遠くないし」

「俺が、もう少し一緒にいたいから」

ずるい。

そんなこと言われたら断れないじゃん。

結局、陽貴君と並んで歩く。

夜だから大丈夫と謎理論を展開しているけど、この人はもっと警戒した方がいいと思う。



「送ってくれてありがとう」

アパートどころか、部屋まで送ってくれた陽貴君。

かなり心配性なようだ。

なぜか無言な陽貴君を不思議に思いながらも、鍵を開ける。

すると、突然ガチャリとドアを開けた陽貴君に部屋に引き込まれる。

「わっ」

ドアが閉まった音が聞こえた。

私の体は、陽貴君の体にすっぽり包み込まれている。

「陽貴君?どうしたの?」

「充電」

なるほど、なら私も。

背中に手を回すと、さらに強く抱きしめられた。

「海音、俺と一緒に住まない?」

突然の発言に動揺する。

「俺の都合で、次いつ会えるかもわからない。だけど、一緒に住めば、1分でも海音を感じられる」

甘えたように話す陽貴君。

私だって、一緒にいられるならそうしたい。

でも、私なんかが、陽貴君の大事な場所に居座っていいんだろうか。
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