キミノオト
「え、無視?ってかお姉さんかわいいね」
どうやら無視されてるらしい。
「ねぇってば!」
突然腕を引っ張られ、驚いた私は顔を上げる。
「無視しないでよ~」
「てか、まじでめちゃかわいくね?」
どうやら私に話しかけていたらしい。
大学生くらいの二人組。
「離してください」
まただ。
龍也の姿が頭の中でちらつく。
血の気が引いていく感覚。
「え~無理無理、せっかくのイブだしさ、一人で過ごさないで、俺らと遊ぼうよ~」
「お姉さんかわいいし、優しくするよ~」
「一人じゃないんで」
なんとか発したのは、今にも消えそうな情けない声。
「いや、今は1人じゃん。だから、こっち先約で」
意味が分からない自己中心的な発言。
ぎゃははと笑っているその声が不快で、気分が悪い。
早く陽貴君のところに行かないと。
そう思うのに、体が動かない。
「固まっちゃってるよ、かわい~」
「そんな顔してるくせに、男慣れしてないんだ~」
「じゃあ、俺らがいろいろ楽しいこと教えてあげるね。行こう」
両腕をつかまれ、さらに人通りの少ない方へ引っ張られる。
恐怖で涙がこぼれる。
「やだ、やめて!」
「やめるわけないじゃん」
「いいから早く来いよ」
抵抗するもむなしく、地面から足が離れた。
「っ陽貴君助けて」
家で待っている彼が、こんなところにいるはずないのに、思わず口から出たのはそんな言葉だった。