キミノオト
「なんで?」
とりあえず風邪をひいては困るので、助手席に乗ってもらう。
「今の海音を1人にしちゃいけない気がする」
「何それ」
「海音、こっち見て」
目を合わそうとしない私に触れようと手がのびてくる。
「触らないで!」
自分でも驚くくらい大きな声。
「あ、ごめんなさい…。私、汚いからさ」
うまく笑えてるかな。
「ねぇ、海音。俺は、海音の百面相を見るのが好きなんだ」
「え?」
「思ったことがそのまま顔に出て、ころころ表情が変わって、それがかわいくて」
何が言いたいのだろう。
「気づいてる?今日、ずっと表情が変わってない。いつもの海音と違って感情が全く顔に出てないんだよ」
悲しそうな顔。
そんな顔させたくないのに。
「海音は汚くないよ。海音は俺が知ってる何よりもきれいだよ」
大粒の涙が頬を伝った。
「怖かったよね、遅くなってごめんね」
怖がらせないようにゆっくり触れ、そっと抱きしめてくれる温かい腕。
「いつもピンチの時は陽貴君が助けてくれるね。ありがとう」
抱きしめ返すことはできないけれど、今はもう少しだけこのままでいたい。
大好きな香りに包まれながら、静かに目を閉じる。
ちゃんと、最後ってわかってる。
今だけ許して。