キミノオト
【17】
離れていた数日間を埋めるように、何度も唇を重ねた。
なんだか気恥ずかしくて、顔を見合わせて笑う。
「少し外歩かない?」
陽貴君の提案にのって、手をつないで、浜辺を歩く。
冬の冷たい風で一気に体が冷え、暖房のきいた車内が恋しくなる。
「俺さ、今までそこそこモテてきたんだよ」
そうでしょうね。
「言い寄ってくる割に、いざ付き合うと思ってたのと違うとか、本当に好きなのかって言われてフラれたり」
理不尽だね。
「俺がお金に見えてるのか、あれこれ買ってってねだってきたり」
陽貴君は、私生活ではあまり贅沢していない。
身に着けているものも、洗練されたものではあるけれど私でも手の届くようなものが多い気がする。
ただ、アーティストとして人の目に触れるときだけは、ハイブランドなものを選んでるんだと思う。
「付き合ってもないのに、におわせされたり」
人間不振になってないのがキセキだよ。
「だけど、海音は違った。そもそも俺たちのこと、曲しか知らなかったし」
「お恥ずかしい話です…」
あの時は、このバンドの曲よく聞くなとは思ってたけど、そんなに有名な人たちだったとは知らなかった。
「俺の作った曲で、俺自身を認めてもらえた気がした」
陽貴君が歩みを止め、振り返る。
「あの日から、もう海音のことが好きになってたんだと思う」
「え…」
「こんなに好きになったのは、海音が初めてなんだ。もう二度と離したくない、っていうか、もう離してあげられない」
真剣な顔。
私は、幸せな言葉をたくさんくれる陽貴君に微笑む。