キミノオト
「海音」
陽貴君は、手を離すと、ポケットから小さな箱を取り出し、私に向けて開く。
月明りに照らされキラキラ光る指輪。
「俺と結婚してください」
本当に?
これドッキリ?
いや、この人は人の心を弄ぶようなことはしない。
なら、これは都合のいい夢かもしれない。
夢ならなおさら、自分のきもちに正直に。
「よろしくお願いします」
嬉しくて涙が溢れる。
陽貴君の瞳も少し潤んでいるような気がした。
力強く抱きしめられた後、そっと指にはめられた指輪。
左手の薬指にはまったそれは、海をモチーフにしているのか貝殻とダイヤが特徴的なかわいらしいデザインだった。
「かわいい」
「絶対海音に似合うと思った」
優しく微笑む彼に、微笑み返す。
陽貴君は、私の首元をちらっと見た。
陽貴君からもらったハートのネックレス。
自分から離れたくせに、どうしても身に着けていたかった。
「つけててくれたんだね」
嬉しそうに笑う陽貴君。
「本当は、そのネックレスより先にこの指輪を買ってた。まだ付き合って日も浅いのに重たい男だと思われるかと思って、踏みとどまったはずだったんだけど」
陽貴君はふっと笑うと、気持ちが抑えきれなかった、と。
「今回の件があって、素直に気持ちを伝えておけばよかったって後悔した。もちろん結婚は、今すぐじゃなくていいんだ。ただ、俺のものだって証はつけておいて」
もちろん、と微笑むと眉尻が下がった優しい顔で微笑み返してくれた。