失恋するまでの10日間〜妹姫が恋したのは、姉姫に剣を捧げた騎士でした〜

カーク3

 何台もの豪奢な馬車で構成された花嫁行列は、一路、南部のロータス領を目指していた。

 本来王都からロータス領に向かうには水路を利用した船の方が早い。だが南部の水路の復旧が間に合っておらず、時間はかかっても馬車で行くよりほかなかった。三週間以上の旅程となってしまったのは、王家の姫の輿入れ道具を引き連れた一大キャラバンのような形態となったからでもある。十七歳のかわいい妹姫のためにと両親が熱を入れた結果だ。王都から南部に至るまでの間も、至る所で花嫁行列は国民たちの熱狂的な出迎えを受けた。

 その華やかな空気も楽しみながら、二人はひたすら南部を目指す。魔獣暴走(スタンピード)で後継を失った南部のロータス伯爵家の養子になることを打診されたカークは、エステルや国王両陛下にも相談した上で引き受けることにした。英雄として侯爵位も授かり、正騎士として約束された未来もあったが、王家の姫君を貰い受ける以上、領地はないよりもあった方がいい。壊滅状態の南部地域をこの目で見ていることもあり、このまま何もせずにいるのもどうかという純粋な思いもあった。

 とはいえ領地経営にはカークもエステルも不慣れだ。義父となるロータス伯爵の存在はあるが、彼は高齢ですべての舵取りが難しい。そのため王都から領地経営に長けた知識を持つ執政官と税務管理官が二人に先立って現地入りしていた。

 順調に旅を続けていた一行だったが、ロータス領に入って少しばかり進んだところで、馬車の乗り換えを求められた。王家が用意した豪奢な馬車でなく、ロータス伯爵家から遣わされた小ぶりの馬車だった。

「乗り換えは構わないが、なぜだ?」

 エステルは一般的な女性よりは鍛えてはいるが、王都を出るのは初めてだし、長旅の疲れもある。負担を考えたカークがそう問えば、道が整っておらず、王家の馬車が通れないのだと使者が説明した。その話を車内のエステルに伝えれたところ、「なら馬に乗り換えればいいんじゃない? ずっと座りっぱなしでお尻が痛かったのよね」とあっけらかんとしたものだった。エステルの乗馬の腕はそう悪いものではないが、慣れぬ街では警護にも限界があるし、道中のエステルは簡素とはいえドレス姿だったので却下せざるを得なかった。エステルと侍女一名を伯爵家の馬車に乗せ、カークは馬で向かうことになった。花嫁道具の方は小分けにして運べるものから運ぶことで話がまとまった。

 この判断は正解だったと、すぐに思い知ることになる。

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