失恋するまでの10日間〜妹姫が恋したのは、姉姫に剣を捧げた騎士でした〜
カーク4
主要な街道を少し進んだだけで、魔獣暴走の爪痕がより深く残っている様を見せつけられることになった。崩れ落ちた建物の脇や前方に、雨露をなんとかしのげるだけの家屋が再建され、それが道幅を狭くしていた。元の場所に建てようにも瓦礫が邪魔でできないのだ。人の気配はちらほらあったが、これまでの街で味わったような熱狂的な歓迎ぶりはまったくない。全体的に街の様子が静かで、エステルを守るように歩みを進めていた騎士たちも、だんだんと言葉少なになっていった。
「酷ぇな。半年前とほとんど変わってないじゃないか」
魔獣暴走に共に対応した騎士のひとりが思わず呟いた言に、カークも唇を噛み締めた。自分たちはぎりぎりまでここに止まっていたので現地の様子は見知っている。特にこの辺りは森が近いこともあり、被害が大きかったところだ。半年前の記憶の中よりは良くはなっているが、まるで時が止まってしまっているかのようだった。
先ほどまで馬車の中から隣を行くカークに積極的に話しかけていたエステルが、いつの間にか無言になっていた。心配になって外から覗き込めば、青白い顔をした彼女がそこにはいた。
「エステル、大丈夫か」
「……」
返ってきたのは沈黙。無理もない話だ。王都以外の場所を見たことのないエステルにとって、この瓦礫の様子がひとつの街の光景だとは信じられないことだろう。そもそも彼女に見せていい風景ではない。そこに思い至らなかった自分に歯噛みすると同時に、馬に乗せていなくてよかったと先ほどの選択を肯定する。
同乗している侍女に窓とカーテンを閉めるよう指示を出せば「待って!」とエステルが声を震わせた。
「このままにして」
「しかし……」
「カーク、お願い。ちゃんと……見せてほしいの」
意志の強い琥珀色の瞳にそう懇願されれば、それ以上止めることなどできなかった。
「危険があったらすぐ閉めさせるぞ」
「……わかったわ」
そしてエステルは伯爵邸に到着するまで、その瞳を逸らすことなく街を見続けてた。幸い邸がある領都の中心部は復興が進んでいて、人々の往来もあり、少し鄙びた街という風情を整えていた。だが同行していた南部出身の騎士からすれば、この景色すら信じられないと言う。
「南部地域といえば王国の食糧庫とも例えられる豊かな穀倉地帯です。例年今ごろは目が醒めるほどの鮮やかな麦秋が至る所に広がっているはずなのに……」
見渡す限りあるのは手を入れられることなく荒れたままの畑。今年の麦の作付けは間に合わなかったのだろう。故郷での任務に張り切っていた若い騎士は涙ぐみながら馬を進めていた。
やがて到着した邸で、ポール・ロータス伯爵が出迎えてくれた。
「酷ぇな。半年前とほとんど変わってないじゃないか」
魔獣暴走に共に対応した騎士のひとりが思わず呟いた言に、カークも唇を噛み締めた。自分たちはぎりぎりまでここに止まっていたので現地の様子は見知っている。特にこの辺りは森が近いこともあり、被害が大きかったところだ。半年前の記憶の中よりは良くはなっているが、まるで時が止まってしまっているかのようだった。
先ほどまで馬車の中から隣を行くカークに積極的に話しかけていたエステルが、いつの間にか無言になっていた。心配になって外から覗き込めば、青白い顔をした彼女がそこにはいた。
「エステル、大丈夫か」
「……」
返ってきたのは沈黙。無理もない話だ。王都以外の場所を見たことのないエステルにとって、この瓦礫の様子がひとつの街の光景だとは信じられないことだろう。そもそも彼女に見せていい風景ではない。そこに思い至らなかった自分に歯噛みすると同時に、馬に乗せていなくてよかったと先ほどの選択を肯定する。
同乗している侍女に窓とカーテンを閉めるよう指示を出せば「待って!」とエステルが声を震わせた。
「このままにして」
「しかし……」
「カーク、お願い。ちゃんと……見せてほしいの」
意志の強い琥珀色の瞳にそう懇願されれば、それ以上止めることなどできなかった。
「危険があったらすぐ閉めさせるぞ」
「……わかったわ」
そしてエステルは伯爵邸に到着するまで、その瞳を逸らすことなく街を見続けてた。幸い邸がある領都の中心部は復興が進んでいて、人々の往来もあり、少し鄙びた街という風情を整えていた。だが同行していた南部出身の騎士からすれば、この景色すら信じられないと言う。
「南部地域といえば王国の食糧庫とも例えられる豊かな穀倉地帯です。例年今ごろは目が醒めるほどの鮮やかな麦秋が至る所に広がっているはずなのに……」
見渡す限りあるのは手を入れられることなく荒れたままの畑。今年の麦の作付けは間に合わなかったのだろう。故郷での任務に張り切っていた若い騎士は涙ぐみながら馬を進めていた。
やがて到着した邸で、ポール・ロータス伯爵が出迎えてくれた。