失恋するまでの10日間〜妹姫が恋したのは、姉姫に剣を捧げた騎士でした〜
カーク11
エステルが邸を発った後、カークはメンデル執政官と面会し、今後の復興計画のあらましを確認した。
「城からの指示書を届けてくださり、ありがとうございました。いやぁ、これで次の一手が明確になりましたよ」
朗らかな表情でそう告げる彼の手にあるのは、昨日のうちにカークが渡しておいた書類だ。
「そこにはどんな指示があったんですか。俺も何も知らされていなくて」
カークとて南部のことを何も知らないまま移住してきたわけではない。だが、魔獣暴走が収束して以降、英雄であるカークは様々な場に引っ張りだこだった。その上結婚式まで半年しかないという驚異の時間のなさ。身体がいくつあっても足りない状況で、後回しになってしまったのは否めない。
こうなっては現地で実地で覚えていくよりほかないと、ここまで先延ばしにしてしまった。エステルや老伯爵を不安にさせないためにも、自分がしっかりしなければならない。
「まずは水路が元通りに使えるよう、河川の船着場の復旧を行うようにと指示がありました。現状陸路による物流は途絶えてはいませんが、地方の道の悪さはご覧になった通りです。水路での輸送が可能となれば、利便性が跳ね上がります。今までは中心部の市街地の復興に力を入れてきましたので、次はそちらですね」
「それは理に叶った話と思いますが、そもそも工事に携われる人員の確保の問題は解決してないですよね」
「え? そのために今回、エステル様とともに騎士団が派遣されたのではないのですか?」
「は……?」
寝耳に水の情報に、カークが驚けば、執政官は資料を指差した。
「ほら、ここに記載があります。“エステル元王女とともに遣わした騎士は復興工事に携わる労働力として使ってかまわない。彼らの駐在は最短で半年、その後も復旧した水路を利用して入れ替え用の人員を都度派遣する”と」
南部に嫁入りするエステルとともに、騎士団の一個小隊が派兵されていた。当然護衛のためとばかり思っていたカークだ。エステルが落ち着けばすぐに引き上げるものと考えていた。
だが彼らはこのまま駐屯するらしい。それも貴重な工事の労働力として。
自分はそんな指示は聞いていないと思ったが、そもそもカークはエステルとの結婚を機に騎士団の名誉団員となっていたのだった。今回同行した小隊は別の隊長が率いている。警護計画の説明は受けていたが、到着後の行動までは把握していない。確認をしようと隊長を任されたデュカスという男を呼び出したが、彼はエステルに着いて荷物の引き取りに向かっており、代わりに副隊長がやってきた。
「執政官殿のおっしゃる通りですよ。我々はここに半年ほど残って、復興のためのあらゆる助力をするべしという命令を団長から受けています」
そもそも今回の南部行きはその目的で人員が確保されたということだった。小隊は若手の単身者の割合が多いようだったが、てっきり年若いカークに配慮して構成されたのだとばかり思っていた。
副隊長の返事を聞いて、メンデル執政官は安堵の声を上げた。
「こちらとしては願ってもないことです。騎士の皆さんに滞在頂く宿舎は魔獣暴走対応のときのものが残っていますし、中心部の復興は対応済みですから、食事やその他の雑事も前回ほどのご不便はおかけしません。以前よりは快適にお過ごし頂けると思います」
「お気遣いありがとうございます。そもそも今回の随行騎士は南部出身者や元討伐隊のメンバーが多く混ざっています。皆、ロータス領のために何かしたいと手を上げた者ばかりです。ですので騎士としての仕事以外も、もちろん工事だってやる気ですよ」
そう胸を叩く副隊長の顔には一片の嘘もなかった。
「魔獣暴走のときは、自分は後方支援のみで前線に立つことができませんでした。英雄カーク・ダンフィル殿の戦う姿をただ応援することしかできなかったのです。今こうしてあなたの元で働けることを誇りに思います。どうぞなんでも命じてください」
その言葉に、カークは胸の奥が熱くなるのを感じた。彼の英雄としての役目はすでに終わっている。その褒賞としても十分すぎるほどの物を貰った。だがこうしてさらに返ってくるものがあり、それがかつての仲間たちからもたらされるというのは格別なことだった。
「城からの指示書を届けてくださり、ありがとうございました。いやぁ、これで次の一手が明確になりましたよ」
朗らかな表情でそう告げる彼の手にあるのは、昨日のうちにカークが渡しておいた書類だ。
「そこにはどんな指示があったんですか。俺も何も知らされていなくて」
カークとて南部のことを何も知らないまま移住してきたわけではない。だが、魔獣暴走が収束して以降、英雄であるカークは様々な場に引っ張りだこだった。その上結婚式まで半年しかないという驚異の時間のなさ。身体がいくつあっても足りない状況で、後回しになってしまったのは否めない。
こうなっては現地で実地で覚えていくよりほかないと、ここまで先延ばしにしてしまった。エステルや老伯爵を不安にさせないためにも、自分がしっかりしなければならない。
「まずは水路が元通りに使えるよう、河川の船着場の復旧を行うようにと指示がありました。現状陸路による物流は途絶えてはいませんが、地方の道の悪さはご覧になった通りです。水路での輸送が可能となれば、利便性が跳ね上がります。今までは中心部の市街地の復興に力を入れてきましたので、次はそちらですね」
「それは理に叶った話と思いますが、そもそも工事に携われる人員の確保の問題は解決してないですよね」
「え? そのために今回、エステル様とともに騎士団が派遣されたのではないのですか?」
「は……?」
寝耳に水の情報に、カークが驚けば、執政官は資料を指差した。
「ほら、ここに記載があります。“エステル元王女とともに遣わした騎士は復興工事に携わる労働力として使ってかまわない。彼らの駐在は最短で半年、その後も復旧した水路を利用して入れ替え用の人員を都度派遣する”と」
南部に嫁入りするエステルとともに、騎士団の一個小隊が派兵されていた。当然護衛のためとばかり思っていたカークだ。エステルが落ち着けばすぐに引き上げるものと考えていた。
だが彼らはこのまま駐屯するらしい。それも貴重な工事の労働力として。
自分はそんな指示は聞いていないと思ったが、そもそもカークはエステルとの結婚を機に騎士団の名誉団員となっていたのだった。今回同行した小隊は別の隊長が率いている。警護計画の説明は受けていたが、到着後の行動までは把握していない。確認をしようと隊長を任されたデュカスという男を呼び出したが、彼はエステルに着いて荷物の引き取りに向かっており、代わりに副隊長がやってきた。
「執政官殿のおっしゃる通りですよ。我々はここに半年ほど残って、復興のためのあらゆる助力をするべしという命令を団長から受けています」
そもそも今回の南部行きはその目的で人員が確保されたということだった。小隊は若手の単身者の割合が多いようだったが、てっきり年若いカークに配慮して構成されたのだとばかり思っていた。
副隊長の返事を聞いて、メンデル執政官は安堵の声を上げた。
「こちらとしては願ってもないことです。騎士の皆さんに滞在頂く宿舎は魔獣暴走対応のときのものが残っていますし、中心部の復興は対応済みですから、食事やその他の雑事も前回ほどのご不便はおかけしません。以前よりは快適にお過ごし頂けると思います」
「お気遣いありがとうございます。そもそも今回の随行騎士は南部出身者や元討伐隊のメンバーが多く混ざっています。皆、ロータス領のために何かしたいと手を上げた者ばかりです。ですので騎士としての仕事以外も、もちろん工事だってやる気ですよ」
そう胸を叩く副隊長の顔には一片の嘘もなかった。
「魔獣暴走のときは、自分は後方支援のみで前線に立つことができませんでした。英雄カーク・ダンフィル殿の戦う姿をただ応援することしかできなかったのです。今こうしてあなたの元で働けることを誇りに思います。どうぞなんでも命じてください」
その言葉に、カークは胸の奥が熱くなるのを感じた。彼の英雄としての役目はすでに終わっている。その褒賞としても十分すぎるほどの物を貰った。だがこうしてさらに返ってくるものがあり、それがかつての仲間たちからもたらされるというのは格別なことだった。