令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~



  ***


 その夜、芙美はアパートの小さなベランダに出て、星空を見上げた。都会の光に少し霞む星々が、静かに瞬いている。スマホの画面には、新しく追加された「三浦侑」の名前。彼女はそれをじっと見つめ、胸の奥がくすぐったいような、不安なような感覚に包まれた。
「また……会えるかな」
 小さな声が、夜の空に溶けていった。恋愛という言葉に、どこか遠慮していた自分。それでも、この出会いが、彼女の心に新しい風を吹き込んでいることは確かだった。
 同じ夜、侑もまた、ホテルの部屋の窓から同じ星空を見上げていた。スマホの画面には【吉川芙美】の名前が表示されている。彼はそれを眺め、自然と口元がゆるんだ。
「きっと、また会える」
 その言葉は、まるで自分に言い聞かせるようだった。侑の心には、仕事とは別の、静かで温かな予感が芽生えていた。
 その夜空の下、ふたりはまだ知らない。この小さな出会いが、やがて大きな物語に繋がっていくことを――。



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