令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~
その夜、芙美はアパートの小さなベランダに出て、星空を見上げた。都会の光に少し霞む星々が、静かに瞬いている。彼女はスマホを取り出し、侑の名前が表示された連絡先を眺めた。クロワッサンの話を思い出し、思わず小さな笑みがこぼれる。
――あの人との距離が、ほんの少しずつ縮まっていく。
その実感が、芙美の胸に小さな灯をともした。恋愛という言葉に、どこか遠慮していた自分。それでも、侑との何気ない会話や、さりげない誘いが、彼女の心に新しい色を塗り始めていた。
同じ夜、侑もまた、ホテルの部屋の窓から同じ星空を見上げていた。スマホの画面には、芙美の名前が表示されている。彼はそれをじっと見つめ、心の奥で静かにつぶやいた。
「……少しずつ、だな」
まだ触れ合ったばかりの距離。だが、芙美の存在は、侑の日常に静かに溶け込み始めていた。仕事に没頭してきた彼にとって、彼女との時間は、まるで新しいデザインのスケッチを始めるような、新鮮な感覚を与えていた。
その夜空の下、偶然の出会いが、確かに物語の軌道を変えつつあった。二人の心は、ゆっくりと、しかし確実に近づいていく――そんな夜だった。