令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~
第5話 小さな衝撃
ある週末の朝、吉川芙美は駅前の図書館に向かって歩いていた。手には仕事用のメモと資料、そして読みかけの文庫本。柔らかな日差しが街を包み、通りには穏やかな週末の空気が漂っている。商店街の喧騒を抜け、静かな路地に入ると、木々の葉がそよ風に揺れ、かすかに土の匂いが鼻をくすぐった。芙美はそんな日常の風景に、ほのかな安らぎを感じながら歩みを進めていた。
だが、胸の奥には、いつものように小さなざわめきがあった。三浦侑の存在が、彼女の心に静かな波を立て続けていた。カフェでの会話、商店街での再会、会議中のさりげない接触――その一つ一つが、まるで心のキャンバスに淡い色を塗るように、彼女の日常に新しい輝きを添えていた。
角を曲がった瞬間、目の前に見覚えのある人影が現れた。
「……三浦さん?」
思わず声を漏らすと、相手もまた足を止めた。そこにいたのは、紛れもなく侑だった。カジュアルな白いシャツに、軽く羽織ったネイビーのジャケット。肩には仕事用のバッグがかけられ、週末とはいえどこか洗練された雰囲気を漂わせている。彼の眼鏡の奥で、穏やかな瞳が芙美を捉えた。
「吉川さん、また会いましたね」