令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~
第11話 初めての距離
週末の朝、吉川芙美は少し早めに駅前に到着していた。手には小さなバッグと、ほのかな緊張感。今日は、三浦侑との初めての二人だけのデートの日だ。空は澄んだ秋の青に輝き、そよ風が通りを軽く撫でていく。駅前の広場には、週末の穏やかな喧騒が広がり、朝の光が人々の影を柔らかく地面に落としていた。
――今日が、ちょっと特別な一日になる。
芙美は、コートのポケットに手を入れながら、心の中でそう呟いた。侑とのこれまでの時間、カフェでの偶然の再会、美術展での触れ合い、告白の瞬間――が、まるで一本の糸で繋がれているように、彼女の心に鮮やかに刻まれていた。恋愛に慎重だった自分。それでも、侑の穏やかな笑顔や誠実な言葉が、彼女の心に新しい扉を開いていた。
改札を出ると、すぐに侑の姿が目に入った。白いシャツにカジュアルなジャケット、眼鏡の奥で柔らかく光る瞳。いつも通りの穏やかな笑顔がそこにあるが、今日はその視線に、いつもより温かな色が宿っているように感じられた。芙美の胸が、小さく、だが確かに跳ねた。
「お待たせしました、芙美さん」
侑の声は柔らかく、どこか照れを含んでいた。
「いえ、私の方こそ……」
芙美の声が重なり、二人は顔を見合わせて自然に微笑んだ。その一瞬のやりとりに、緊張がほぐれ、温かな空気が二人を包んだ。