令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~



「三浦侑と申します。東京のデザイン会社から来まして、今回スポンサーとしてご一緒することになりました。よろしくお願いします」
 その声は、カフェで聞いたときと同じく、柔らかく落ち着いていた。名刺には、シンプルながら洗練されたデザインのロゴが印刷されており、彼の職業を物語っている。芙美は急いでバッグから自分の名刺を取り出し、両手で差し出した。
「吉川芙美です。広報を担当しています。あの……先日は、失礼しました」
 彼女の声は少し上ずっていた。自分でもそのことに気づき、内心で少し焦る。侑はそんな彼女の様子に気づいたのか、穏やかに微笑んだ。
「いえ、こちらこそ。偶然ですね」
 その言葉は簡潔だったが、ふたりの間に流れる空気には、どこか温かな余韻があった。まるで、初めて会ったカフェでのさざ波が、再び静かに広がるような感覚。芙美は名刺を手にしながら、侑の顔をちらりと見つめた。彼の眼鏡の奥の瞳は、静かで深みのある光を湛えていた。



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