令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~
第16話 小さな試練
吉川芙美は、いつもの通勤電車に揺られながら、昨夜の余韻に浸っていた。窓の外を流れる街の風景は、いつもと同じように過ぎていくが、彼女の心は、侑との甘く特別な夜の記憶で満たされていた。レストランでの温かな会話、夜の散歩での手の触れ合い、初めての心からの抱擁――それらが、まるで心のキャンバスに鮮やかな色を塗るように、彼女の胸を温めていた。
――あの時間が、こんなにも心を満たすなんて。
だが、ふとした瞬間に、小さな不安が頭をよぎった。
――仕事で忙しい侑さん。私との時間、本当に大切にしてもらえてるかな……?
侑の誠実な笑顔や、彼女を見つめる真剣な瞳を思い出すたびに、芙美の心は温かくなる。だが、彼の多忙なスケジュールや、最近の少し遅れた返信が、彼女の胸に微かなざわめきを生んでいた。恋愛に慎重だった自分。それでも、侑との時間が、彼女の心に新しい扉を開いていた。この幸せを信じたいのに、どこかで小さな不安が顔を覗かせる。芙美は、電車の窓に映る自分の顔を見つめ、そっと息を吐いた。