令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~



カフェでの一瞬の視線の交錯、イベント会場での再会――それらが、まるで心の奥に小さな石を投じたかのように、静かな波紋を広げていた。
 芙美は、三十代に入ってから、恋愛という言葉にどこか距離を感じるようになっていた。学生時代や二十代前半の頃は、恋の予感に胸を高鳴らせることがあった。でも今は、仕事に追われ、友人たちの結婚や出産の話を聞くたびに、自分の人生の選択を振り返る瞬間が増えた。恋愛は、どこか遠い世界の話のように感じられる。なのに、三浦侑という存在は、彼女の日常に不思議な色を添えていた。
 ――ただの偶然なのに。
 そう自分に言い聞かせるが、胸の奥のざわめきは収まらない。芙美はコーヒーカップを手に取り、冷めかけた液体を一口飲んだ。少し苦い味が、彼女を現実に引き戻した。


< 8 / 131 >

この作品をシェア

pagetop