愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
 陰陽師と狐。間違いなく何らかの関わりがあると想像できたが、彼には彼女の存在を〝話さない〟ことが約束だ。

 ……因縁でもあったのだろうか。安直に考えられるのはそれだけ。けれど、彼女は〝幸せになることを望む〟と言ってくれた。見たところ悪意もない。だから、決して悪い存在ではなく、善良な存在に思えた。

 とはいえ、不可解なことがあまりに多い。いくら二人が〝知る必要がない〟と言っても、自分自身のことだ。本能的に知るべきだと思ってしまう。当然、探りを入れたい気持ちはあった。

 だが、龍志と夫婦になったあの夜、〝幸せを望む〟と語りかけられた以来、彼女は黙りしたまま。頭痛に苦しみながら彼女の声を聞こうと何度も語りかけたが、応えはなかった。ここまで無反応だと、あの日の出来事は一夜限りの夢のように思えた。

 しかし、こうも体調が悪い日が続くと、日に日に龍志の態度がおかしいので、季音は回復に専念しようと思った。

 こうなってからは、嗜虐心を含む顔を向けない。それどころか、変な冗談や小言も言わなくなった。もちろん尻尾も掴まれない。ただひたすら心配するばかりで、まるで毒気が抜けてしまったようだった。

 まして、床に伏せている自分を見る彼の顔は、痛ましいほど深刻だった。そんな態度の変化から、とてつもない心配をかけていると痛感した。

 きっと、過去世が原因しているのだろうと想像できた。
 床に伏せる自分を覗き込む彼の顔を見た瞬間、詠龍の面差しと重なり、過去世の自分たちが自然と浮かんだ。
 
 こうして看病されていた。そして、きっと……命を終えるとき、看取ってくれたのだろう。だからこそ、彼はこうも不安そうな顔をするのだと想像できた。

(早く元気にならないと……)

 血の気のない顔を上げ、季音は竹林の上高く飛ぶ鳶を眺め、ほぅと一つため息をついた。

 ***

 (とんび)が高く飛べば翌日晴れると言う。だが、その夕刻から雨が降った。そのせいで気温が下がり、案の定、季音はひどい冷えに悩まされ、龍志と同じ床で眠っていた。

「さて、そろそろ寝るか」

 少し食むだけの接吻(くちづけ)を落とされ、彼は裸火を吹き消した。しんと静かな闇に包まれるが、彼は背を摩る手を止めず、季音を包み込むように抱き寄せた。

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