愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
こうして頬を寄せ、抱き合うだけで、季音は深い幸福を感じていた。けれど、心のどこかで、もっと甘く深い接吻を願わずにはいられなかった。もっと深く繋がりたい――そんなはしたない思いが胸をよぎる。
毎日のように裸で抱き合い、甘く幸せな行為に溺れていた日々も、体調を崩してからは途絶えている。もちろん、それなくとも龍志の愛は感じられるし、大切にされていることも分かっている。それでも、ほんの少し寂しさが募っていた。
――身体の不調は、あまりに多くのことを奪う。
掃除も洗濯もままならず、楽しみにしていた毎日の湯浴みも、三日に一度、身体を拭くだけに減ってしまう。
龍志に漢字の読み書きを教わる時間も失われ、社へ出向くこともできない。時折、体調が良い日にタキが訪ねてくれるが、彼女も気遣ってか、わずかな時間しか過ごせない。
境内の裏でタキと密やかに恋の話を交わしたり、タキと朧の鍛錬を蘢と眺めながら他愛もない会話を楽しんだり、朧が蘢を揶揄ってふてくされる様子を笑うことも、ずっと遠い日々になってしまった。
数ヶ月続いた当たり前の日常が、「できない」「ない」に閉ざされるのは、ひどく歯痒い。だからこそ、季音は一刻も早く回復したいと願わずにはいられなかった。
背を摩られ、寒さもだいぶ和らぎ、身体の奥から熱が蘇る。やがて、眠気に誘われ、季音が微睡み始めた矢先――隣からひどい嗚咽と咳き込みが聞こえ、意識はすぐに引き戻された。
「龍志様?」
呼びかけるが、彼の痛ましい咳は止まらず、季音は身体を引きずって裸火をつけた。
「どうなさったのですか」
燭の明かりのもと、映し出された彼の姿を見た瞬間、季音の背筋が凍てついた。布団に横たわる彼は玉のような汗をかき、咳き込んだ唇から鮮血が溢れていた。咳き込むたび、鮮血は布団に飛び散り、赤々とした染みを広げた。
「龍志様!」
何が起きたのだろう。なぜ急にこんなことに。症状こそ違うが、まさか病が移ったというのか……。季音は状況が理解できず、彼の名を何度も叫んだ。龍志は緩やかに瞼を持ち上げ、唇を動かした。
――大丈夫だ。
そう言ったのだろう。それを確と読み取ったが、どう見ても大丈夫ではない。だが、どう処置すれば良いか分からず、季音は青ざめた。
毎日のように裸で抱き合い、甘く幸せな行為に溺れていた日々も、体調を崩してからは途絶えている。もちろん、それなくとも龍志の愛は感じられるし、大切にされていることも分かっている。それでも、ほんの少し寂しさが募っていた。
――身体の不調は、あまりに多くのことを奪う。
掃除も洗濯もままならず、楽しみにしていた毎日の湯浴みも、三日に一度、身体を拭くだけに減ってしまう。
龍志に漢字の読み書きを教わる時間も失われ、社へ出向くこともできない。時折、体調が良い日にタキが訪ねてくれるが、彼女も気遣ってか、わずかな時間しか過ごせない。
境内の裏でタキと密やかに恋の話を交わしたり、タキと朧の鍛錬を蘢と眺めながら他愛もない会話を楽しんだり、朧が蘢を揶揄ってふてくされる様子を笑うことも、ずっと遠い日々になってしまった。
数ヶ月続いた当たり前の日常が、「できない」「ない」に閉ざされるのは、ひどく歯痒い。だからこそ、季音は一刻も早く回復したいと願わずにはいられなかった。
背を摩られ、寒さもだいぶ和らぎ、身体の奥から熱が蘇る。やがて、眠気に誘われ、季音が微睡み始めた矢先――隣からひどい嗚咽と咳き込みが聞こえ、意識はすぐに引き戻された。
「龍志様?」
呼びかけるが、彼の痛ましい咳は止まらず、季音は身体を引きずって裸火をつけた。
「どうなさったのですか」
燭の明かりのもと、映し出された彼の姿を見た瞬間、季音の背筋が凍てついた。布団に横たわる彼は玉のような汗をかき、咳き込んだ唇から鮮血が溢れていた。咳き込むたび、鮮血は布団に飛び散り、赤々とした染みを広げた。
「龍志様!」
何が起きたのだろう。なぜ急にこんなことに。症状こそ違うが、まさか病が移ったというのか……。季音は状況が理解できず、彼の名を何度も叫んだ。龍志は緩やかに瞼を持ち上げ、唇を動かした。
――大丈夫だ。
そう言ったのだろう。それを確と読み取ったが、どう見ても大丈夫ではない。だが、どう処置すれば良いか分からず、季音は青ざめた。