愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
「前の男神は、人の娘に心を奪われ、神をやめて人となった。そこに大きな原因があるのでしょう。人になろうとも、神であった者は神通力を持ち、その子孫に稀にそれを受け継ぐ者が現れる。そう……詠龍様がその末裔であり、龍志様が詠龍様の生まれ変わりということ。『代々』とは、そういう意味ではないのかと」

「つまり、大雑把に要点をまとめると……その元地主神の男神に何らかの恨みがあった。あるいは、別に神になりたくなかった。そんで、藤夜とやらは腹いせに荒神に墜ちて、こいつを末代まで狙って恨んでるのか?」

 タキが言葉を挟むと、蘢は「あくまで憶測ですが」と前置きして、静かに頷いた。

「たかが神獣の僕には、深い理由までは分かりません。タキ殿の言うように、別に神になどなりたくなかったのかもしれません。押しつけられた形だったのかもしれません。それとも、神と神に近い存在とはいえ、男女の愛憎が絡んでいたのかもしれません」

 そうして、藤夜は長きにわたり恨みを募らせ、荒魂(あらみたま)を築き上げて荒神に墜ちたのか、あるいは自ら荒魂(あらみたま)を創り出して墜ちたのか。

「社の前に座するだけの僕には、詳しいことは分かりません」

 蘢はすべてを語り終えると、深いため息を漏らし、肩を落とした。その姿に、誰もが重い真実を噛みしめるような静寂を感じていた。

 龍志の胸には、腑に落ちない思いが渦巻いていた。すべてが八つ当たりとしか思えず、理不尽なとばっちりが季音を苦しめていることに苛立ちが募った。

「人になった黒羽の土地神が先祖だろうが、それは俺自身ではない。いい迷惑だ。だが、一番いい迷惑を被ってるのは藤香……季音だろ。あいつは何も関係ないだろ……」

 やるせなさが龍志の心を締め付けた。目に手を当て、唇を強く噛んだ。腹の底で暴れる途方もない怒りは、吐き出してもどうにもならないと分かっていた。秋の冷たい空気が、熱く疼く胸を冷ますようだった。

「蘢、話してくれてありがとな」

 自分を落ち着けようと、龍志は蘢に打ち明けられたことに礼を言った。蘢は首を振って、ただ頷いてくれた。

「……だが、藤夜とやらは明らかに様子がおかしかった。俺には藤夜が何をしたいのかさっぱり分からない。即ち、三日後その場に行かねば、対処の判断しようもない」

 どうなるか分からないが、悪いが付き合ってくれるか――。
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