愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
「……詠龍様が、龍志様が何をしたというの! 確かに彼は、貴女が私の身体を奪った後に冷たい石の中に封印したわ。それを恨んでいるの? 貴女は、そもそも私の身体を手に入れて何をしたかったの!」

 季音の問いに、彼女は薄く笑む。
「あぁ。封印はな、それはとても恨んでおる」そう言って、彼女は季音に視線をやると静かに続けた。

「……あの男、神通力を持っておるだろう? それは紛れもなく、神の子孫の証。あやつの先祖は社にいた先代の神さ。その神は人の娘に魅了されて人になった。そして妾に神の座を押しつけた。妾の気など何も知らずに、有無を言わせず押しつけた」

 ――そうして幾百年か時を経たころ、あやつの子孫が哀れなお前を連れて帰ってきた。丁度良い入れ物と思ったさ。
 そこで積年の恨みが築き上げた荒魂(あらみたま)で荒神に墜ちてやった。末代まで祟る復讐のため……。

 藤夜は全てを告げ、「ざまぁみろ」と唇を歪め、冷たくほくそ笑む。
 その藤色の瞳には、長い年月を煮詰めたような怨念が揺らめき、季音の心を凍てつかせるようだった。

 季音は血が滲むほど唇を噛みしめた。
 そういうことだったのか。だから報復のために自分たちを陥れたのか。気づけば季音は藤夜に掴みかかっていた。

「――っ、ふざけないで! あなたが恨む先代の神と、詠龍様や龍志様は同一ではないわ! 怒りを向ける矛先が違うじゃない! それで私の身体を乗っ取った挙げ句に、蘢様の対を獅子を殺したの? 確かに私は貴女に生きたいと縋った。貴女の存在を信じるしかなかったわ!」

 こんなに剣幕になって怒り散らしたことなど、記憶の中では初めてだろう。恐ろしい相手に物を申している自覚はあるが、やり場のない気持ちの方が圧倒的に勝っていた。

 季音は藤夜を四阿(あずまや)の柱に押しつけ、力強く睨みつけた。

「だけど、貴女。全てが不自然よ……なぜ、封印が解けた後から私でいさせたの。乗り替わるくらい簡単よね……でも、私はそれで過去の願いは叶えてもらえたと思ってる。でもさっきの言葉で一つだけ分かったわ。あなた、そもそものやり方がおかしいわよ」

 季音が強く言い放つと、藤夜は挑発的な視線をやって、馬鹿にするように鼻で笑う。

「ほぅ。愚図な藤香が妾に説教と……なんだ? 聞いてやらんこともない」
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