愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
「ちょ、ちょっと待って、どういうことなの……色々とおかしいわ!」

 季音は取り乱し、稚児を抱えた藤夜に詰め寄ると、彼女はまだ笑いが収まらないのか、肩をわなわなと震わせ――豪快に笑う。
 妖艶に釣り上がった(まなじり)にはうっすらと涙が滲んでいた。「ああ可笑しい」なんてこぼし、涙を拭うと、彼女はこれまでにないほどに優しい双眸で季音を見た。

「……あんたが幸せを満喫した後に、その身を乗っ取って復讐してやろうと思ってたさ。だがな、新たな魂を宿すなど、もはや奇跡としか思えん。このせいでもう、全部が馬鹿馬鹿しくなって、毒気も恨みも抜けてしまったよ。妙に懐かれるわで、妾はろくに動けない」

 その言葉に、季音は唖然としてしまう。けれど、本当にそんなことがあるのだろうか?

「ちょっと待って! それで積年の恨みが晴れたですって? でも、龍志様の精気まで奪って酷いことをして……貴女、言っていることと行動が滅茶苦茶だわ!」

 慌てて問い詰めると、藤夜はまたも大笑い。「そうじゃな」と頷き、彼女は緩やかに唇を開く。

 ――初めこそは、いずれ季音を庭に閉じ込めて龍志に復讐してやろうと思っていたことは本当らしい。だが、こんな展開想像もできまい。それは、神にさえ予想だにしない奇跡を結んだのだから。

「そうじゃ。全てが馬鹿馬鹿しいと思った。だからもう、どうもよくなった」

 だから、復讐を止めたと彼女はきっぱり言う。
 その瞳には嘘もなく、真摯に清んだもの。本当なのだろうと季音も思えた。

 だが、一つの身体に三つの魂を入れている状況だ。それが藤夜一人の力では支えきれず、仕方なしに龍志から精気を奪ったのだと彼女は言う。

「妾は荒魂(あらみたま)を自らの怨念で創り出し、荒神に墜ちた。とはいえ、内に潜んでいるのならば荒魂(あらみたま)の干渉は大して受けないようだ。つまり今は、素の自分じゃ。だがな、妾が表に出れば自我を失う」

「ならば、どうして……私を呼び出して言わなかったの」

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