愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
第31話 大きな奇跡と魂の贖罪
季音は、じっと稚児を丸い目で見つめる。
すると彼も、季音と同じ表情で、その顔をまじまじと見つめて、何度も目をしばたたく。藤夜と何の関係が……。それに、どうしてこんなにも恐ろしい狐に懐いているのだ。
神妙に見つめ合い、幾何か。稚児を抱える藤夜は唖然とした面持ちで季音に口を開く。
「おい。藤香……嘘じゃろ、なぁ冗談じゃろ……? まさか。あんたは、この子が分からぬのか?」
呆然と藤夜に言われ、季音は小首を傾けた。すると、彼女は大袈裟なほどの溜息をつき、片手で深く皺が寄ってしまった眉間を揉む。
「文月の上旬頃じゃったか……あんたと邂逅して間もなく、この子は現れた。あんたは夏の終わりから酷く体調が悪くなったじゃろう? そして、ここはあんたの心の中……魂が宿る場所だ」
――どういうことか分からぬのか?
藤夜は呆れ混じりに付け加える。
そこで季音はようやく理解した。
「嘘、でしょう……?」
季音は目を大きく瞠り、稚児を再び瞳に映す。
自分によく似た顔立ちに、青光りするほどの濡羽色の髪。丸い瞳を彩る色彩は黒曜石の如く黒々と澄み切っていて。
まさか……この色彩の特徴には色々心当たりがありすぎる。
――本当に、そんなことがあるのだろうか。
季音は唇に手で当て、唖然としたまま稚児を見る。
「夏の終わりからの不調」「ここは魂が宿る場所」――そう。紛れもなく、龍志と自分の子に違わない。しかし、目の前にしても、にわかに信じられなかった。だが、心当たりはありすぎるし、ここまで両方に似ていると「そうなのだろう」と納得してしまう。
「なぁ、藤香。授かる授からないは別として、心当たりは大いにあるじゃろう……? 毎晩のよう。一晩で一度では飽き足らず、それはもう何度も何度も何度も」
呆れた口調で藤夜に言われ、季音の顔はたちまち真っ赤に色づいた。
憑依されて、狐になったとはいえ、子が授かるなんてことはあるのだろうか? こんなことが本当にありえるのだろうか?
季音は上気する頬に手を当て、藤夜に視線を向ける。
「本当にな。まったく……天晴れとしか言いようもない」
藤夜が途端に無邪気な笑みを見せて言うものだから、季音は素っ頓狂な声を上げてしまった。
すると彼も、季音と同じ表情で、その顔をまじまじと見つめて、何度も目をしばたたく。藤夜と何の関係が……。それに、どうしてこんなにも恐ろしい狐に懐いているのだ。
神妙に見つめ合い、幾何か。稚児を抱える藤夜は唖然とした面持ちで季音に口を開く。
「おい。藤香……嘘じゃろ、なぁ冗談じゃろ……? まさか。あんたは、この子が分からぬのか?」
呆然と藤夜に言われ、季音は小首を傾けた。すると、彼女は大袈裟なほどの溜息をつき、片手で深く皺が寄ってしまった眉間を揉む。
「文月の上旬頃じゃったか……あんたと邂逅して間もなく、この子は現れた。あんたは夏の終わりから酷く体調が悪くなったじゃろう? そして、ここはあんたの心の中……魂が宿る場所だ」
――どういうことか分からぬのか?
藤夜は呆れ混じりに付け加える。
そこで季音はようやく理解した。
「嘘、でしょう……?」
季音は目を大きく瞠り、稚児を再び瞳に映す。
自分によく似た顔立ちに、青光りするほどの濡羽色の髪。丸い瞳を彩る色彩は黒曜石の如く黒々と澄み切っていて。
まさか……この色彩の特徴には色々心当たりがありすぎる。
――本当に、そんなことがあるのだろうか。
季音は唇に手で当て、唖然としたまま稚児を見る。
「夏の終わりからの不調」「ここは魂が宿る場所」――そう。紛れもなく、龍志と自分の子に違わない。しかし、目の前にしても、にわかに信じられなかった。だが、心当たりはありすぎるし、ここまで両方に似ていると「そうなのだろう」と納得してしまう。
「なぁ、藤香。授かる授からないは別として、心当たりは大いにあるじゃろう……? 毎晩のよう。一晩で一度では飽き足らず、それはもう何度も何度も何度も」
呆れた口調で藤夜に言われ、季音の顔はたちまち真っ赤に色づいた。
憑依されて、狐になったとはいえ、子が授かるなんてことはあるのだろうか? こんなことが本当にありえるのだろうか?
季音は上気する頬に手を当て、藤夜に視線を向ける。
「本当にな。まったく……天晴れとしか言いようもない」
藤夜が途端に無邪気な笑みを見せて言うものだから、季音は素っ頓狂な声を上げてしまった。