愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
依頼料のことだろう。働かせるには対価が必要――彼の格言を思い出し、季音は不安げに龍志を見上げると、彼は肩に触れる手の力を少し強めた。
「……まず藤夜の支払い分は〝永久〟をかけてもらう。贖罪だ。社に戻り、神として黒羽を永久に見守ってもらう。そしてお前への依頼料は……生涯俺を愛し、俺に愛され続け、母になる覚悟だ」
――払えるな? と告げると、彼は懐から呪符を数枚取り出した。それと同時に『安いもんだね』と藤夜の艶やかな声が響く。
藤夜が合意したことを伝えると、彼は深く頷き、やんわりと微笑んだ。
「それとな。お前には命を懸けるほど大事に想う友がいることを忘れるな」
龍志は傍らに佇む蘢、朧、そしてタキに視線を送った。
「――滝壺から這い上がる龍の如く、鮮烈なる新月の娘、〝瀧〟――彼女は俺の三番目の式となり、神通力の加護を授けた」
「おタキちゃん……?」
ふざけ半分に式への勧誘をされていたのは知っていたが、誇り高き彼女が使役下になるとは思わなかった。
季音は目を瞠り、〝瀧〟を見た。彼女は「そういうことだ」と鼻を鳴らして、恥ずかしげに笑う。
「どうして……」
「どうしてもこうしてもねぇだろ。あと、お前、忘れ物だ」
タキは懐から枯れ葉色の袱紗に包まれた何かを取り出し、季音に手渡した。開けば、自分がいつも肌身離さず大切にしていた藤の簪で──
彼の血に濡れたものを放り投げたはずなのに、血の染みも香りもなく、以前以上の輝きを取り戻していた。まるでぴかぴかに磨かれたように。
「お瀧ちゃん、これ……」
季音が目を丸くしてタキに訊けば、彼女は呆れた視線を向ける。
「馬鹿。大事なもんだろ? 置いてくんじゃねぇよ。あと、おれは自分の主がまだいけ好かない。だけどな、お前がこいつであの野郎を滅多刺しにしてくれて清々して式神になったようなもんだ。気負ってるようだが、あいつは妖並かそれ以上に頑丈だから心配するな」
彼女は冗談交じりに言うが、その瞳の底にあるものは、揺るがない温かさがあり、真摯だった。片や、龍志はなんとも言えぬ苦い表情を浮かべている。
「……まぁ、そういうことだ。ついでに、おれの親友で居続けることを誓え。こいつらの隣人であり友であることを誓え」
瀧は季音の髪をくしゃりと撫でた。
「……まず藤夜の支払い分は〝永久〟をかけてもらう。贖罪だ。社に戻り、神として黒羽を永久に見守ってもらう。そしてお前への依頼料は……生涯俺を愛し、俺に愛され続け、母になる覚悟だ」
――払えるな? と告げると、彼は懐から呪符を数枚取り出した。それと同時に『安いもんだね』と藤夜の艶やかな声が響く。
藤夜が合意したことを伝えると、彼は深く頷き、やんわりと微笑んだ。
「それとな。お前には命を懸けるほど大事に想う友がいることを忘れるな」
龍志は傍らに佇む蘢、朧、そしてタキに視線を送った。
「――滝壺から這い上がる龍の如く、鮮烈なる新月の娘、〝瀧〟――彼女は俺の三番目の式となり、神通力の加護を授けた」
「おタキちゃん……?」
ふざけ半分に式への勧誘をされていたのは知っていたが、誇り高き彼女が使役下になるとは思わなかった。
季音は目を瞠り、〝瀧〟を見た。彼女は「そういうことだ」と鼻を鳴らして、恥ずかしげに笑う。
「どうして……」
「どうしてもこうしてもねぇだろ。あと、お前、忘れ物だ」
タキは懐から枯れ葉色の袱紗に包まれた何かを取り出し、季音に手渡した。開けば、自分がいつも肌身離さず大切にしていた藤の簪で──
彼の血に濡れたものを放り投げたはずなのに、血の染みも香りもなく、以前以上の輝きを取り戻していた。まるでぴかぴかに磨かれたように。
「お瀧ちゃん、これ……」
季音が目を丸くしてタキに訊けば、彼女は呆れた視線を向ける。
「馬鹿。大事なもんだろ? 置いてくんじゃねぇよ。あと、おれは自分の主がまだいけ好かない。だけどな、お前がこいつであの野郎を滅多刺しにしてくれて清々して式神になったようなもんだ。気負ってるようだが、あいつは妖並かそれ以上に頑丈だから心配するな」
彼女は冗談交じりに言うが、その瞳の底にあるものは、揺るがない温かさがあり、真摯だった。片や、龍志はなんとも言えぬ苦い表情を浮かべている。
「……まぁ、そういうことだ。ついでに、おれの親友で居続けることを誓え。こいつらの隣人であり友であることを誓え」
瀧は季音の髪をくしゃりと撫でた。