愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
  ――私は貴女を慕い、敬います、と季音が静かに述べ、一拍置く。

  藤夜は簪をそっと銜えた。

 その瞬間、悍ましい瘴気が荒れ狂い、突風となって山々の木々を激しく揺さぶる。
 辺りが眩い光に包まれ、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の赤い花弁が白へと変わり、光の粒子となって溶けていく。

 水のない河原の熱い空気が、まるで浄化されるように震えていた。

  暴風の中、白銀の光に変わった曼珠沙華(まんじゅしゃげ)がきらきらと漂う。 タキは手を伸ばし、季音の名を叫ぶ。朧は今にも吹き飛ばされそうなタキを庇い、強く抱き寄せる。
 蘢は龍志を守るように立ちはだかり、揺るぎない壁となっていた。轟音が遠ざかるにつれ、瘴気が薄れ、静寂が荒涼とした河原にゆっくりと戻っていった。
< 139 / 145 >

この作品をシェア

pagetop