愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
第34話 静かな別れ、四季の庭園は和魂の光を宿す
季音がふと我に返ると、目の前に朱塗りの門がそびえていた。
門に背を預け、藤夜が静かに立っていた。陽光に揺れる四季の花々が、庭園を彩っていた――春の桜、夏の紫陽花、秋の菊、冬の椿が織りなす甘やかな香りが、心を包む。
季音は首を傾け、藤夜にゆっくりと歩み寄った。
「藤夜様、どうしてここに……?」
無事にすべてが終わったはずではなかったのか……。不安げに問いかける季音の声が、庭の花々の間をそよぐ風に溶けた。
「ああ、無事に終わったよ。何もかも……最後に礼を言いたくてな。挨拶に来たのさ」
藤夜の声は、どこか柔らかく響いた。なんとも律儀な瑞獣だと、季音は思わず微笑んだ。すると、彼女もやんわりと微笑み返してくれた。
「藤香……いや、今は季音か。お前にとって大切なものであろうが、贈り物をありがとう。あんたとの友の証として、この簪をずっと大事にするよ。あと、妾からはこれを……」
藤夜はそう言うと、きらきらと淡い藤色の光を放つ玉を、季音にそっと差し出す。花々の間を舞う蝶のように、その光は庭園の空気を優しく揺らしていた。
「これが……藤夜様の荒魂?」
季音は掌に収まるその球体を受け取り、じっと見つめた。
涼やかな色合いなのに、触れると温かく、微かに漂う藤の香が、まるで日溜まりに満ちた藤棚の下にいるような安らぎを呼び起こした。
「綺麗……」
勝手に言葉が漏れた。あまりの美しさに、季音の胸は静かな感動で震えた。
「そうじゃ。これは、あんたの夫が浄化してくれて、和魂となったもの。これが妾があんたに贈る友の証だ。人並みの生命力を授けられるだろう。これを庭の好きな場所に置いておけ。妾も簪を大事にする。社に戻ったら、これを神殿に祀ってくれ」
藤夜はそう告げ、季音に藤の簪を手渡す。すると、彼女の姿は煙のようにふわりと溶け、簪に吸い込まれていった。
微かに残った甘やかな香りは、四季の花々がそよぐ庭に溶け合うように消えた。
すべてが終わったのだろう。季音は朱塗りの門をくぐり、藤棚に覆われた四阿へと向かった。
足元で花びらが舞い、穏やかに輝く陽光が以前よりも眩く、温かく感じられた。
門に背を預け、藤夜が静かに立っていた。陽光に揺れる四季の花々が、庭園を彩っていた――春の桜、夏の紫陽花、秋の菊、冬の椿が織りなす甘やかな香りが、心を包む。
季音は首を傾け、藤夜にゆっくりと歩み寄った。
「藤夜様、どうしてここに……?」
無事にすべてが終わったはずではなかったのか……。不安げに問いかける季音の声が、庭の花々の間をそよぐ風に溶けた。
「ああ、無事に終わったよ。何もかも……最後に礼を言いたくてな。挨拶に来たのさ」
藤夜の声は、どこか柔らかく響いた。なんとも律儀な瑞獣だと、季音は思わず微笑んだ。すると、彼女もやんわりと微笑み返してくれた。
「藤香……いや、今は季音か。お前にとって大切なものであろうが、贈り物をありがとう。あんたとの友の証として、この簪をずっと大事にするよ。あと、妾からはこれを……」
藤夜はそう言うと、きらきらと淡い藤色の光を放つ玉を、季音にそっと差し出す。花々の間を舞う蝶のように、その光は庭園の空気を優しく揺らしていた。
「これが……藤夜様の荒魂?」
季音は掌に収まるその球体を受け取り、じっと見つめた。
涼やかな色合いなのに、触れると温かく、微かに漂う藤の香が、まるで日溜まりに満ちた藤棚の下にいるような安らぎを呼び起こした。
「綺麗……」
勝手に言葉が漏れた。あまりの美しさに、季音の胸は静かな感動で震えた。
「そうじゃ。これは、あんたの夫が浄化してくれて、和魂となったもの。これが妾があんたに贈る友の証だ。人並みの生命力を授けられるだろう。これを庭の好きな場所に置いておけ。妾も簪を大事にする。社に戻ったら、これを神殿に祀ってくれ」
藤夜はそう告げ、季音に藤の簪を手渡す。すると、彼女の姿は煙のようにふわりと溶け、簪に吸い込まれていった。
微かに残った甘やかな香りは、四季の花々がそよぐ庭に溶け合うように消えた。
すべてが終わったのだろう。季音は朱塗りの門をくぐり、藤棚に覆われた四阿へと向かった。
足元で花びらが舞い、穏やかに輝く陽光が以前よりも眩く、温かく感じられた。