愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
「それもそうだが、人の俺から見ても妖狐の雌は毒々しくて淫靡だとか高飛車だったりキツい印象が強いんだ。そういう妙な角がないからお前は……素直に可愛い」
──と、思うって言いたいだけだが。と、告げる彼の言葉は語尾に行くほどどんどん小さくなっていった。
よく見れば、彼の頬がわずかに赤く染まっている。初めて見せる表情だ。
だが、彼の言葉が自分に宛てられたもの──と悟った瞬間、キネの頬はさらに赤々と色づいた。
一方、彼はだんだん居心地が悪くなったのだろう。
一つ咳払いをした後『さてと』と仕切り直した。
「少し無礼だったかもな。詫びになるか分からないが……丁度、良い字が思い浮かんだ」
そう言って龍志は紙を新しく用意し、再び筆に墨を含ませる。丁寧に筆をしごき、彼は『季音』と丁寧に文字を綴った。
だが、先程の字とは違い複雑なそれをキネは読めなかった。
それが漢字と呼ばれるものだと潜在的に理解できるが……。
「漢字ですか?」
訊けば、彼は『よく分かったな』なんて言ってわずかに唇を綻ばせる。
「──暦を捲る毎に聞こえるもの。芽吹きに花々の開花。やがてそれは枯れ果て霜が降り雪が積もる。即ち、歩み日々感じる〝季節の足音〟その頭文字を取り季音」
まるで祝詞を詠唱するかのよう。龍志の言葉はいつにもなく、どこか尊厳たるものだった。
キネは藤色の瞳を大きく見開き彼の方を向く。
すると、彼は一つ息を吐き出した後に『と……趣ある裏の意味どうだ?』なんて、鼻からふと息を吹き出し笑みをこぼした。
どうしようもなく心の奥底がムズ痒かった。どうしていいか分からないほど、頬に昇った熱が下がらなかった。
「……どうしよう。おタキちゃんが付けてくれた名前、もっともっと好きになっちゃった」
──嬉しい。と、思わず漏れ出た言葉は、淀みもない素直なものだった。
崩れた言葉遣いにすぐ気づき、キネは慌てて唇を塞ぐ。すると龍志は、キネの肩をやんわりと掴み、緩やかに精悍な面を近付けた。
「お前本当に可愛いな」
唇と唇が触れ合いそうなほど間近。彼が言葉を発するたび、その吐息が自分の唇を擽った。
その感覚も束の間──龍志はキネを抱き寄せ、腕の中に納めて首筋に唇を寄せた。
「やっぱり柔いんだな。髪も首筋も頭がクラクラするほど良い匂いがする……」
──と、思うって言いたいだけだが。と、告げる彼の言葉は語尾に行くほどどんどん小さくなっていった。
よく見れば、彼の頬がわずかに赤く染まっている。初めて見せる表情だ。
だが、彼の言葉が自分に宛てられたもの──と悟った瞬間、キネの頬はさらに赤々と色づいた。
一方、彼はだんだん居心地が悪くなったのだろう。
一つ咳払いをした後『さてと』と仕切り直した。
「少し無礼だったかもな。詫びになるか分からないが……丁度、良い字が思い浮かんだ」
そう言って龍志は紙を新しく用意し、再び筆に墨を含ませる。丁寧に筆をしごき、彼は『季音』と丁寧に文字を綴った。
だが、先程の字とは違い複雑なそれをキネは読めなかった。
それが漢字と呼ばれるものだと潜在的に理解できるが……。
「漢字ですか?」
訊けば、彼は『よく分かったな』なんて言ってわずかに唇を綻ばせる。
「──暦を捲る毎に聞こえるもの。芽吹きに花々の開花。やがてそれは枯れ果て霜が降り雪が積もる。即ち、歩み日々感じる〝季節の足音〟その頭文字を取り季音」
まるで祝詞を詠唱するかのよう。龍志の言葉はいつにもなく、どこか尊厳たるものだった。
キネは藤色の瞳を大きく見開き彼の方を向く。
すると、彼は一つ息を吐き出した後に『と……趣ある裏の意味どうだ?』なんて、鼻からふと息を吹き出し笑みをこぼした。
どうしようもなく心の奥底がムズ痒かった。どうしていいか分からないほど、頬に昇った熱が下がらなかった。
「……どうしよう。おタキちゃんが付けてくれた名前、もっともっと好きになっちゃった」
──嬉しい。と、思わず漏れ出た言葉は、淀みもない素直なものだった。
崩れた言葉遣いにすぐ気づき、キネは慌てて唇を塞ぐ。すると龍志は、キネの肩をやんわりと掴み、緩やかに精悍な面を近付けた。
「お前本当に可愛いな」
唇と唇が触れ合いそうなほど間近。彼が言葉を発するたび、その吐息が自分の唇を擽った。
その感覚も束の間──龍志はキネを抱き寄せ、腕の中に納めて首筋に唇を寄せた。
「やっぱり柔いんだな。髪も首筋も頭がクラクラするほど良い匂いがする……」