愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
 自分が何者か分からない。なぜ輪廻したのかも分からない──だから結局、タキのツテを頼りに山の妖たちに聞き回るしかなかった。

 白々とした雪白(せっぱく)の毛並みに、漆黒に彩られた耳の頂と尾の先端。藤色の丸い瞳──キネの容姿は珍しいのか、山の妖たちはみなぎょっとした目で彼女を見た。

 一般的な狐の妖は、黄や灰、黒の毛並みがほとんどらしい。
 そんな特徴的な姿なら、誰かが知っていると期待したが、皆が「知らない」と首を振った。

 最後に残された希望は同種の狐だった。だが、「それだけは絶対に止めた方がいい」とタキに強く止められた。

 理由は単純だった。
 狐は群れをなさず、つがいや子とだけ寄り添う。妖になればなおさら孤高で、狡猾で気性が荒い。

 妖気を持たないキネが争えば、危険で厄介だとタキに咎められた。
 下手をすればタキにも危害が及ぶ。キネはそれを理解し、同種に探りを入れるのをすぐに諦めた。

 希望は一つも残っていない。それなのに、「誰かに会いたくて仕方ない」という想いだけが募った。藤の簪を見ると、その想いはさらに強まり、焦燥さえ覚えた。だが、その「誰か」は一向に分からない。

 深く考えてみるが、その輪郭は微塵も掴めなかった。
 タキに打ち明けると、彼女が困った顔をするので、キネはそれ以上言うのをやめた。

 タキは唯一無二の存在だ。だから、困らせてはいけない。ただそう思った。
 そんなタキが言ってくれたことは、極めて前向きだった。

「一から始めろ。幸いにも言葉が分からないやらの幼体返りしている訳でも無い。これから無から始めれば良い。狐だろうが少しは面倒を見てやるから」

 彼女は朗らかにそう言ってくれた。そのとき、キネはタキの存在を今まで以上に尊く感じた。

 ──狐は狡猾で高慢、狸は臆病なのに傲慢。
 その性質は相性が悪く、化かし合いを恐れて関わりを避ける。キネはその事実を知っていた。
 だから、なぜタキがここまでしてくれるのか不思議で、思い切って尋ねた。

 だが、答えはあまりにもあっさりしていた。
「いくら狐とは言え、見捨てるのは寝覚めが悪かった。放っておけねぇだろ普通」

 タキは呆れたように笑んだ。だが、きっとそれはタキだからこその答えだった。キネから見ても、タキは「かなりの変わり者」だった。

 狸は少数の群れで行動する。それは妖になっても変わらない。いや、妖ならより大きな群れになることが多いと聞いた。タキも一応は群れに属しているが、キネが見る彼女はいつも単独行動だった。

 群れに帰るのは満月と新月の日のみ。それ以外はほとんどキネと一緒にいてくれた。
 タキははみ出し者だった。だが、彼女の性格からすると、群れに避けられているわけではない。
 むしろ、勝手に放浪しているように思えた。
< 6 / 145 >

この作品をシェア

pagetop