愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
「ああ、まぁ……そうだな」

 告げた途端に、龍志の頬に朱が差した。たったそれだけで嫌な予感がしてしまうもので、季音も釣られて更に赤々と顔を染める。

「私……何を、なさったのですか」
「そうだな、なかなかに大胆なことを。挙げ句に寝たが」

 彼にしては歯切れが悪かった。まともに言わないということは龍志――否、詠龍にしても恥ずかしいことだったのだろうか。

「その……私、本当に詠龍様の妻だったのですね?」

 思わず()けば、彼は頬を赤く染めたまま頷いた。それから、仕切り直すように「そうだ」と彼は薄い唇を開く。

「時間が結構経っちまったけど、そういえばお前から返事を聞いてなかったな……」

 言われた言葉に季音は目を見開く。

「返事……」

 何のことかすぐに分かったが、妙な胸騒ぎを鎮めようと季音は彼の言葉を復唱する。それでも、どくどくと嫌なほどに胸が高鳴った。

「忘れてないよな、季音。俺と夫婦になってくれるか? 俺はお前を命がけで幸せにすると誓う」

 ――お前が、心の底から愛おしい。
 あまりに真摯な言葉。黒曜石の双眸に、まっすぐ射貫かれ――季音の鼓動は高鳴った。

  途方もなく嬉しいと思えてしまった。潜在的に好きで仕方がないと、ずっと思っていたのだから。私がこんなに幸せでいいのだろうか。
 そんな風に思うと、自然と視界が霞み――季音の瞳は溺れるように潤った。

 しかし、思ってしまうのは本当に自分で良いのだろうかと。彼は人、自分は妖なのだから。

 その途端だった――。脳裏に響いたのは、久しく聞いた艶やかな声色。

『あんたの幸せを(わらわ)は望む――』

 その言葉に背中を押されるかのようだった。まるで封じられた思いの扉を開いたかのよう。季音の桜色の唇は自然と開く。

「ふつつかものの私ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

 そう言って、季音は丁寧に手をつき頭を垂れて彼に礼をする。

 顔を上げた途端だった。抱き寄せられたのも束の間、顎を摘まみ上げられた。
 そうして、当然のように押しつけられたのは彼の唇で……。

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