愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
 朧とタキはかなり酒が強いようだが、夜が更けるころにはいい感じに酔いも回って、二匹で何やら妖術の話など妖にしか分からないような話題に花を咲かせていた。もう完全に意気投合して仲良くなっている。顔面に傷を負わせたことを朧はかなり気にしていたようだが、その蟠りは解けつつあるように見えた。

 完全に蚊帳の外、取り残された季音と龍志は顔を見合わせる。

「この様子じゃ明日片付けすりゃいいか。寝る前に風呂くらい入りたいし戻るか」

 そうして、季音と龍志はいまだ熱心に話し込んでいるタキと朧にひと声をかけてボロ屋に戻ってきた。

 それから風呂を済ませて、もうすぐ丑の刻も過ぎる深夜にも関わらず龍志は茶を沸かしてくれた。

「酒より茶の方がなんか落ち着くな」

 湯飲み茶碗を片手で掴んで、龍志はずずっと茶を啜る。その隣で季音も熱々の茶をゆっくりと飲んだ。

「龍志様は普通にお酒が飲めるじゃないですか」
「まぁな。だが、鬼と狸の飲んだくれ二匹比べりゃ強くもない。それに鬼の酒は、人には如何せん強すぎる。あんなもの誤魔化して飲まないと潰れるわ」

 無理無理といったそぶりで、彼は手を払って言う。
 だからあんなに、ちびちびと舐めるように飲んでいたのかと妙に納得してしまった。

 ――鬼の酒、それは不思議なもので朧の持つ酒樽は無限に酒が沸くそうだ。
 確かに言われてみれば、あの宴会は彼の酒を延々と飲んでいた。飲んでも飲んでも尽きないほどに酒樽から酒が出ていたことを季音は改めて思い出す。しかも、面白いことに注ぐ毎に味も変わるらしい。果たしてどのようなまやかしなのか……その辺りは一切不明らしい。

「アレは人が飲んでも害はない。強いだけでただの酒だ。ただな、あんな便利なものがあるから、あいつは年中飲んだくれてるんだよ」

 話し終えた龍志はふと笑って、再び湯飲みに口を付ける。

 楽しかった。宴会の賑やかな余韻に浸りながら、季音はふと、酒にまつわる古い記憶を呼び覚ましたことを思い出した。
 過去の彼、詠龍に心配そうな顔で見られたことが、ひどく恥ずかしいことをしたのだと思わせた。蘢のようにつぶれて眠るならまだ良いが……。
 ずっと昔の出来事なのに、季音はそれを思い返すと一人で顔を赤らめた。

「どうした?」
「あの……詠龍様の時、私が酔っ払ったところ見てるんですよね」
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