愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
「ダメではない、それでいい。分かってるだろうがいずれ時は来る。季音が妖術を使ったのは見ただろう。お前の背負ったその使命、俺が塗り替えさせてくれ。そもそもが狸だが〝龍の子〟なのだろう――ならば、〝本当の龍の子〟になれ。俺の式神になれ」
決して無駄死にするな。と、凄み──龍志はさっと懐から短冊型の呪符を取り出した。
それは何も書かれておらず、真っさらなもので……。
しかし、見たタキはたちまち目を尖らせて、龍志を睨み据える。
「呼び出しの理由は、そういうことか。しつこい奴だ。そもそもお前に負けた身だ、拒否もできぬことを良いことに、随分強引な勧誘をするもんだな」
顔をしかめたタキは彼の手にある白紙の呪符を奪い取るなり、くしゃくしゃに丸め込む。
「タキ、俺の式神になれ。時が満ちる寸前で俺は季音を討つ。それが俺が輪廻した意味だ。今度は封じやしない。本気で殺す気でいる。――俺の詰めが甘すぎたせいで、お前のような者を出したことは事実だ。供物ではなく一つの刃として、お前の力を貸せ」
真摯に龍志はタキに頭を垂れた矢先。頬にたちまち鈍痛が襲いかかった。
殴られた――と、それを悟るのはすぐだった。顔を上げると、案の定タキは拳を握って震えていた。
「行く末はどうにもならんことは初めから覚悟してる! だが、お前は本当にそれで良いのか! お前は前世から、あいつのつがいだろ! 騙した挙げ句の果てに殺すのか、他のやり方はないのか! ……何が、何がっ、何が狸は傲慢だ! そっちの方が身勝手で傲慢だ!」
――だから、おれは人は大嫌いだ。と、タキは剣幕にがなるが龍志は怯むことなく、頷いた。
「悔いはある、罪悪感もある。だから、時が満ちるまでは妻を命がけでも幸せにすると誓った。愛しく思う気持ちも引き継がれたのだから、過去に詠龍が寵愛した以上に愚図なあいつが愛おしく思う。だが、やらねばならない」
――自分の命を投げ出して死に急ぐとしても成し遂げなければいけない、自分にしかできないことだから。と、胸に秘めた思いを全て曝け出し、龍志はタキを真摯に射貫く。
「頼む。手数になってくれ」
タキは今度は殴ってこなかった。ただ一つ落胆のため息をつき、彼女は龍志に顔を上げるように言う。
決して無駄死にするな。と、凄み──龍志はさっと懐から短冊型の呪符を取り出した。
それは何も書かれておらず、真っさらなもので……。
しかし、見たタキはたちまち目を尖らせて、龍志を睨み据える。
「呼び出しの理由は、そういうことか。しつこい奴だ。そもそもお前に負けた身だ、拒否もできぬことを良いことに、随分強引な勧誘をするもんだな」
顔をしかめたタキは彼の手にある白紙の呪符を奪い取るなり、くしゃくしゃに丸め込む。
「タキ、俺の式神になれ。時が満ちる寸前で俺は季音を討つ。それが俺が輪廻した意味だ。今度は封じやしない。本気で殺す気でいる。――俺の詰めが甘すぎたせいで、お前のような者を出したことは事実だ。供物ではなく一つの刃として、お前の力を貸せ」
真摯に龍志はタキに頭を垂れた矢先。頬にたちまち鈍痛が襲いかかった。
殴られた――と、それを悟るのはすぐだった。顔を上げると、案の定タキは拳を握って震えていた。
「行く末はどうにもならんことは初めから覚悟してる! だが、お前は本当にそれで良いのか! お前は前世から、あいつのつがいだろ! 騙した挙げ句の果てに殺すのか、他のやり方はないのか! ……何が、何がっ、何が狸は傲慢だ! そっちの方が身勝手で傲慢だ!」
――だから、おれは人は大嫌いだ。と、タキは剣幕にがなるが龍志は怯むことなく、頷いた。
「悔いはある、罪悪感もある。だから、時が満ちるまでは妻を命がけでも幸せにすると誓った。愛しく思う気持ちも引き継がれたのだから、過去に詠龍が寵愛した以上に愚図なあいつが愛おしく思う。だが、やらねばならない」
――自分の命を投げ出して死に急ぐとしても成し遂げなければいけない、自分にしかできないことだから。と、胸に秘めた思いを全て曝け出し、龍志はタキを真摯に射貫く。
「頼む。手数になってくれ」
タキは今度は殴ってこなかった。ただ一つ落胆のため息をつき、彼女は龍志に顔を上げるように言う。