愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
「それで情が移ったと……」

 彼女の態度や行動と照らし合わせると、そうだろう。そうとしか言えないだろう。
 彼女もまた輪廻の後は孤独に生きていたのだと想像も容易い。きっと、寂しさもあっただろう。
 どうやらこれが図星のようで、タキは特に何も言い返さなかった。

「この件を山の妖は知ってるのか?」
 
 ()くと、彼女はすぐに頷いた。

「狸が(ほこら)を護る役目を負ってるのは誰もが知ってる。けれど皆、高みの見物だ。おキネが荒神の器だと分かってるはずなのに、誰も本当のことを口にしない。荒神が顔を出して山を荒らされても困るからな。それに、入れ物の肉体を壊しただけで終わるはずがないってことも分かってる。正体は堕ちた神だ。次の入れ物を探すのは目に見えてる。だから、誰もあいつを殺そうとしなかった。〝自分を知ってるか?〟とあいつが問いかけても、皆、しらを切るんだからな」

 ――ただ静かに見守る他はない。
 そう付け添えて、タキは貝殻のような白い瞼を伏せた。

「あとな。あいつ、随分と綺麗な(かんざし)を見てはおれに〝誰かは分からないけど会いたい人がいる〟って散々言ってた。詮ずるところお前が人だった頃のおキネのつがいだろう?」

 タキは瞼を持ち上げて、龍志の方をまっすぐに射貫く。

 ――そこまで分かっていたのか。人の話を聞きもしない粗暴な狸だと思っていたが、どうやら頭は良いらしく鋭い洞察力を持ち合わせている。龍志は感心してしまった。

「ああ、全部当たってる。賢いなお前は」

 素直に褒めれば、タキは身震いをして『お前に褒められると寒気がする』と舌打ちを入れた。

「さておき、話を戻すが……どうしてお前はあいつを取り戻そうとした?」
「供物として自分なりの責任もあったからだ。おれは人は嫌いだが……あいつは、何も知らずにこんなおれを馬鹿みたいに信じてくれた。笑ってくれた。だから、そんなあいつが好きだ。だから必ず取り戻して、時が満ちれば己の責任を全うしようとした」

 ――理由はそれだけじゃダメか?
 潔いほどにはっきりとタキは言う。

 その瞳は、あまりにもまっすぐで気圧されてしまいそうなほど――龍志はすぐに首を横に振る。

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