青春とりもどせない症候群
エビ焼きがふたつ届いた。焼きたてあつあつの。
窓際の席から建設関係っぽいおじさんたちの集団がこちらに手を振っている。
「あ、ありがとうございます!!」
「お幸せにな!!」
「ありがとうございます!!」
「お客様。
向こうのお客様からです」
「え?」

素直にならざるを得ない夜だ。心がほかほかあっためられて熱いくらい。
「結婚してくれないか」
「断る」
「なんで!!」
「どさくさに紛れてうんって言わせようとすんな!!」

「好きな食べ物はエビだよな?」
「うん」
「好きな飲み物はあったかいルイボスティー」
「うん」
「特技は90年代歌手の声真似」
「うん」

「俺が好きだろ?」
「うん」
「結婚してくださいませ」
「断る」

しばし彼は私を無言でにらんだ。でもキラキラしていた。

「好きなだけお子様ランチ作ってあげるから!!」
「うん」
「俺と結婚してよ」
「断る」

この世のすべての音がラブソングになるみたいな夜だ。すべてがキラキラして見える。こんな気持ちはじめて。
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