甘く苦く君を思う
彼は平日に訪れる日もあるが、渚のいる日曜に顔を出すこともあった。
今日も彼はいつものようにお店に現れた。幸子さんたちはまた来たのね、と声をかけるくらい顔見知りになっていた。

「こんにちは、渚ちゃん」

いつものように渚に声をかけていたが、なんだか様子がおかしい。彼は額に手を当てると私に声をかけてきた。

「沙夜、渚ちゃん元気がないな」

「え?」

「なんだか熱っぽくないか?」

私は厨房から出て渚のいるお店の端の椅子に行くとなんだが目が腫れぼったく、頬も熱い。朝はいつもと変わらなかったのに……。ううん、そう言えば少し元気がなかったかもしれない。でも忙しさにかまけて「気のせい」と思い込みたかったのかもしれない。

「渚、大丈夫?」

うん、と小さく頷くが私に手を伸ばし、だっこをせがんできた。抱き上げるとぐったりと肩に頭をもたげていた。

「病院に連れて行こう」

彼の声にハッとした。私は反射的に首を振ろうとした。彼に迷惑をかけるわけにはいかない、と。でも渚のぐったりとした様子に、遠慮をしている場合ではないと考え直す。

「……ごめんなさい、お願いします」

私たちの成り行きを見守っていた横井夫妻も早く、と私を急かせる。

「車を回してくるから待ってて」

彼はそういうと急いで店から出て行った。
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