甘く苦く君を思う
かかりつけの小児科は日曜でやっておらず、気が動転した私を宥めながらネットで調べた救急外来に連れて行ってくれた。
病院の待合室は多くの人が来ていて騒がしい。受付を済ませると長椅子に座っていた。
車をパーキングに止めに行っていた彼は戻ってくると私の横に座る。そして、渚の首元にまた触れていた。

「熱いな」

うん、と言う私に「大丈夫だ」と優しく声をかけてくれる。
どうして自分を優先して渚の体調が悪いのにもっと早く気付けなかったのだろうと情けない。母親失格だ。
診察室に呼ばれ、見てもらうと風邪による発熱だろうとの診断にようやく胸を撫で下ろした。
隣に座っていた彼は腕を組み、黙って座っているが、その視線はずっと渚に注がれていた。

「すぐに良くなるといいな」

その小さなつぶやきに私の心はわずかに揺れた。
彼は自分が父親であると知っているわけじゃない。ただの1人の大人として真剣に心配してくれているのだ。

「ありがとうございます」

私も小さな声でお礼を伝えた。

「礼なんて言わなくていい。俺が気がついたのは偶然だ。でも本当は君が1番気がついていたんだろ?」

その言葉に私は唇を噛んだ。
その通りだった。朝から渚の様子がいつもと違うと気付いていながら仕事を理由に気がつかないふりをしていた。
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