甘く苦く君を思う
そう思っていると、渚がふと近づいてきた。

「まま、おじちゃんとなかよし?」

その質問にハッとするが、すぐに笑顔を作ると答えた。

「うん、仲良しだよ」

「なら、おててつないで」

その言葉には素直に従えない。彼も渚の言葉に動けずにいた。
すると渚は砂だらけの手で私の手を掴む。そして同じように隣に並ぶ彼の手を掴んだ。渚の手は私たちの手を重ねさせる。

「なかよしね」

そういうと笑ってまた砂場に戻っていってしまった。
私の手に重ねられた彼の手に力が込められる。
引き抜こうとすればできるかもしれないのに、することができない。彼の懐かしい手の感触に記憶が呼び戻らせるようだった。

「沙夜にとって過去にしたい出来事だったのはわかっている。取り戻したくても俺を許せない気持ちも痛いほどよくわかる。それでも俺はもう離したくない。この気持ちに嘘はつけない」

「本当はわかっているの。私だって昴さんのことを信じたいって思ってる。でも心のどこかで、もしまた裏切られたらと思うと立ち止まってしまう。もうあの時のように立ち直れない」

私の手をそっと包み込むと、その手は彼の口元に運ばれた。

「もう何も心配しなくていい。俺に守らせてほしい。絶対に俺から離れることはないと誓う」

その言葉に、その視線に私の心は後押しされた。

「渚は昴さんの子なの……勝手に産んでごめんなさい」

ようやく口に出せた真実に涙が溢れ、声が震えた。

「もしかしたら、と思っていた。でもそうでなくても沙夜の子供なら一緒に育てていきたいと思ったから俺はこの手を取った」

「ごめんなさい……」

「謝ることなんてひとつもない。むしろ大変な時に俺は何もしてあげられなかったことが悔しいよ。すまなかった」
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