英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 イレーヌ姫はパシンと音を立てて扇を閉じ、探るような目で話しかけてきた。

「今日は妙におとなしいのね。まるで初めて会ったような顔をして……記憶喪失になったというのは本当なのかしら。使用人たちの間でめっぽう噂になっているようだけど」

「えっ」

 そんな事情まで客人に伝わっているとは思わなかった。ルシウス様やロキ君が話したとは考えにくい。おそらくは当方のメイドがあちらの侍女に情報を漏らしたのだろう。
 どう対応すべきか考えていると、姫はこらえきれないとばかりに全身を揺らして笑いだした。

「ルシウス卿から離婚を突きつけられて、ショックで記憶を失ったんですって? アハハッ、おかしくて腹がよじれそうよ。人を侮辱しておいて、今度は自身が捨てられることになるなんてね。忘れたふりでもしなければ、恥ずかしくて表を歩けないんでしょう」
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